木こりと音楽家が届ける。森と音楽で心を取り戻し、自然の循環を“感じる”時間 #1

※ 全2話の 1話目

はるか昔、言葉よりも先に生まれたといわれるコミュニケーションツールが「音楽」。かつては森の中で火を焚いて、音を鳴らして仲間と踊り、心の底から笑う時間があったことでしょう。そんな原始的なひとときを今に再現するのが、木楽家(もくがくか)・薦田雄一(こもだ・ゆういち)さんと音楽スタジオ「Green chord」の福田亮祐(ふくだ・りょうすけ)さんです。木こりと音楽家という異色なタッグのお二人ですが話を進めるうちに、森と音楽を通して心を解放するヒントが見えてきました。

“楽しい”を軸にして、森や間伐の大切さを感じてほしい

木こりとして自ら山に入りながら、間伐材を家具や木工品へと加工する薦田雄一さん

「林業と音楽の融合って、なんか刺激的だなって」

二人の出会いについて尋ねると、「いつから一緒にいたっけ、もう忘れた」とあっけらかんと笑いながら、冒頭の言葉を続けてくれたのが木楽家の薦田雄一さん。隣に座る糸島の音楽スタジオ「Green chord」の福田亮祐さんとの出会いがきっかけとなって、ともに音楽を通して森の営みを感じてもらう取り組みに励んでいます。

糸島市で生まれ育った薦田さんは、幼少期から父親に連れられ山に入り、林業の手伝いを行っていました。「無理矢理連れて行かれて嫌だったんです。みんなは遊んでいるのに、なんで俺は山でこんな仕事をやっているんだって」と振り返り、就職を機に林業とは離れることに。しかし、勤めていた会社が閉業したことから、木工作家への道を歩みはじめます。作品の材料を手に入れるために、40歳を前に木こりとして再び山へと戻ってきたのです。

間伐材を削って作るホイッスル「フォレストコール」は、アクセサリーとしても人気

「最初は、仕事として木を切っていただけで、山への思い入れが大きかったわけじゃないんです。でも、なんで杉やヒノキの人工林が生まれたのかを知って、改めて山について考えるようになりました」

日本で多く見られる杉やヒノキの人工林は、戦後復興のため木材需要が急激に拡大し、木材不足に陥ったことを理由に国の政策で生まれたものです。しかし、1960年代に木材の輸入が始まり、国内林業は衰退。現在は、荒廃した人工林によって光が届かなくなった土地は植物や生き物の多様性が失われ、土砂災害で大きな被害を出す原因になっています。そこで必要になってくるのが「間伐」。木の成長に合わせて間伐することで、森の多様性を取り戻し、機能面を育みます。

そんな間伐材の必要性について、行政主催のイベントやメディアを通して知っている方もいることでしょう。でも、「自分たちの生活レベルで腑に落ちている人は少ない」と薦田さん。

「間伐の大切さを言葉だけで伝えようとしても、なかなか届かない。でも、音楽ならストンと何かが落ちてくる。音楽って楽しいでしょう。“楽しい”が軸になると、人って集まってくるんです」

子どもや高齢者に優しくなれる、「人生の満足度」を音楽で上げる

「Green chord」オーナーの福田 亮祐さんは、ドラム講師としても活躍中

そんな薦田さんと思いを共にする福田さんは、糸島の音楽スタジオ「Green chord」を2015年に開設しました。ライブや音楽イベントを開催する際に、客として訪問していた薦田さんと知り合いましたが、「コモさんと出会うまで、木や森のことなんて興味がなくて、全然知らなかった」と言います。

「でも知っていくうちに、森と音楽ってすごく相性がいいんだって思ったんです」

糸島の音楽スタジオ「Green chord」は、カフェを併設。子ども向けのバンド教室を開催したり、福田さんの気分でオープンする「駄菓子屋ロック」などもあって、大人だけでなく子どもたちも多く訪問する

スタジオ開設当初から「音楽を共通言語に0歳から100歳までを楽しむこと」をモットーに掲げる福田さん。人生の満足度には【教育と福祉】が大きく関係していると考えています。

「子どもたちが楽しそうにしているか、じいちゃん・ばあちゃんたちが苦しい顔をして死んでいないかだと思うんです。中間層である自分たちは幸せを追い求められるけど、子どもや高齢の方は自分たちだけではどうにもならない。だから、【教育と福祉】の満足度が高い町は、いい町だと僕は思うんです。いろいろと変化がある時代ですが、子どもたちや高齢の方に対して、もっと優しくできなかったら“終わるな”って思っていて。僕らは、たまたま音楽っていう武器を持っているから、音楽でその満足度を上げたいなって」

子どもも高齢者も、障害があっても演奏できる間伐材から生まれた楽器

そう考えた福田さんは薦田さんとともに、楽器を楽しむワークショップやイベントを開催しています。そこで登場するのが、大人も子どもも、高齢者も、障害があっても、楽譜が読めなくても、音を奏でる楽しさを共有できる楽器です。

福田さんが座って演奏しているのが「カホン」。ズンズンと響くリズムサウンドに自然と体が揺れる

まずは、カホンと呼ばれるペルー生まれの打楽器。木でできた箱型の楽器で、叩くとズンズンと予想以上に大きなサウンドを奏でます。

コードが押せず、ギターが上手く引けなかった人も簡単に演奏できる「ブンネ」

スウェーデン生まれの楽器・ブンネは、ネック部分につけた(写真で見える赤い色の部分)バーを動かすことで、簡単に和音を奏でることができる4弦ギター。楽譜は音符ではなくバーの位置を指す色が指示されたシンプルなものです。

ブンネの楽譜。思わず「これでいいの⁉︎」と驚けば、「これでいいんです」と福田さんににっこり笑って返された

この日は福田さんがカホン、薦田さんがブンネをそれぞれ演奏してくれたのですが、お二人が手にする2つの楽器、実は薦田さんが制作したもの。素材には糸島の間伐材が使われています。

「楽器なんか作ったことなくて、なんで僕がって気持ちはありました(笑)。木工と楽器は必要な知識が全然違うから、もっと精巧に作れる人がいると思うんですけど…」と薦田さんはぼやきますが「でもコモ(薦田)さんの作った楽器じゃなきゃだめだった」と福田さんはきっぱり。

「使う楽器の種類はなんでもいいんです。でも、ちゃんと意味がある楽器を使いたい。森に生えていた木で作った楽器を、森で演奏する。生えていた場所で、楽器としてもう一度命を吹き込まれた木が音を鳴らすって最高じゃないですか」

木こりと音楽家が届ける。森と音楽で心を取り戻し、自然の循環を“感じる”時間 #2

語り部一覧

木楽家・音楽家 /
薦田雄一さん・福田亮祐さん
薦田雄一さん
木楽家(もくがくか)/糸島市出身。
木こりとして自ら山に入りながら、間伐材を家具や木工品へと加工する「木工房moqu cOmo(モクコモ)」を主宰。
福田さんと出会ったことがきっかけとなり、カホンやブンネといった木楽器の製作も手がけている。

福田亮祐さん
糸島の音楽スタジオ Green chord/福岡市出身。
大学を卒業後、いくつかの職を経て糸島市に移住。
2015年に音楽スタジオ&カフェ「Green chord」をオープンした。
毎年11月にはキャンプフェス「OTOCAMP」を開催する。

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