海
ゆるく、楽しく海の問題に向き合う。山下商店とつむぐ、糸島らしさ #1
※ 全2話の 1話目
糸島市といえば美しい海が印象的。そんな糸島の海が今、大きな問題を抱えています。それが、海藻が減少して起こる「磯焼け」です。そんな磯焼け問題をなんとかしようと立ち上がったのが、わかめやひじきといった海藻類をメインに扱う「山下商店」代表の山下浩典さん。「海藻」を切り口に、美しい海を守るための取り組みを行う団体「Toi Toi (トワ トワ)」も主宰しています。活動を通して、山下さんが目指すこれからの糸島の姿を伺いました。
糸島のわかめのおいしさに感動!
「はじめて糸島のわかめを食べたときに衝撃を受けました。歯応えがあって、主食になるんじゃないかってくらいおいしかったんです」
糸島のわかめを広めていきたい。はじめてそう思ったきっかけを教えてくれたのは、山下商店の山下浩典さん。父親が立ち上げた海産物卸問屋を15年ほど前に引き継ぎました。現在は、糸島産のわかめやひじきといった海藻類の商品開発や販売を行っています。
海に面した糸島は、海産物の宝庫。牡蠣や鯛なども「糸島ブランド」として良く知られています。一方、わかめやひじきの認知度は高くありません。収穫量も多くはないものの、春には地元の産直市場に登場。知る人ぞ知る海の幸として楽しまれています。
山下さんが感動した糸島のわかめ。ぜひ一度食べてみたいと今年の収穫状況を尋ねると、山下さんは顔を曇らせます。「実は、今年は全然だめ。磯焼けによって海の砂漠化が進み、わかめが生えない状況です。これは糸島だけでなく、全国的にも問題になっています。」
わかめ危機とウニ
海藻類が育ちにくくなり、減少してしまう磯焼け。地球温暖化による海水温度の上昇が原因と言われていますが、さらにある生き物がそのスピードを加速させています。
「大きな原因がウニ。生え始めの柔らかなわかめをウニが食べてしまうのです。ウニが増えた原因は地球温暖化という声もありますが、確かにいえるのは近年、漁師がウニを漁獲しなくなったためでしょう」。
殻を割って中の黄色い身を味わうウニ。しかし、「最近はウニの餌が減って身が痩せ、商品の価値が下がっている」と山下さんは話します。漁獲されなくなったことで、ウニは自然のままに増殖。餌が少ないためわずかな海藻に群がり、食べ尽くしてしまうことが磯焼けに繋がっているのです。
天敵・ウニをあえて育てて特産品へ
各漁協が補助金を活用して駆除を進めても、どんどん増え続けるウニに悩んでいた山下さん。そんなときに知ったのが神奈川県で養殖されている「きゃべつウニ」です。海藻の代わりに特産品のきゃべつを与えて太らせた養殖ウニで、海の厄介者が新たな特産品へ成長するのではと期待されています。
「きゃべつのかわりに、出荷できない海藻を与えることで同じようにウニを養殖できるんじゃないかと。実は、海藻を加工する際に廃棄しないといけないわかめやひじきがどうしても出てしまうんです。それをウニに与えたらいいんじゃないかと考えました。」
さらに、山下さんがウニの餌として注目した海藻はほかにもあります。「砂浜を歩いていると、海から海藻が打ち上がっているでしょう。それを拾って、餌として与えているんです。砂浜に打ち上がっている海藻にも漁業権があり、福岡の漁協さんの許可を得てビーチクリーンをしながら海藻を拾っています。」
ウニの餌となる海藻拾い、実は私たちも体験できるイベントを開催しています。それが、「ビーチクリーン」。山下さんが主宰する団体「Toi Toi」が企画し、海藻をはじめとした海岸のゴミ拾いを行う取り組みです。
山下さんが「Toi Toi」を立ち上げたのは、2018年のこと。「以前は糸島といっても知らない人も多かった。『糸島って、どこにある島ですか』って言われることもあったんです。でもメディアに取り上げられるようになったりして徐々に有名になって、今では多くの方が来てにぎわう町になりました。一方で、問題になったのがゴミの問題。観光客がポイ捨てしたゴミを、地元の人が拾うということが続きました。観光客によって栄えた部分もありますが、『ゴミを捨てるなら観光客なんて来なくていい』という声が地元で聞こえるようになったのも事実です」
当時から、東京をはじめとした福岡県外で自社商品の営業に励んでいたという山下さん。「糸島を盛り上げたいとの思いで動いていたけれど、反面、ゴミ問題を知ってからは、ただ盛り上げるだけというのは違うなと」。そこで思いついたのが、ビーチクリーンでした。「ウニの養殖について考え始めたのもその頃。ただゴミを拾うのではなく、ゴミになるはずの海藻をうまくウニに繋げていけるんじゃないかって思って、今に至るんです」
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