ゆるく、楽しく海の問題に向き合う。山下商店とつむぐ、糸島らしさ #2

※ 全2話の 2話目

楽しくゴミ拾いで、海の中の出来事を“自分ごと”に

そんなビーチクリーンのモットーは、【楽しく】やること。「そもそもゴミを拾う行為って、そんなに楽しいものじゃないでしょう。ビーチクリーンでは、ゴミ拾いはあくまでも脇役。ただ海岸を散歩する気分で参加してもいい。同時開催するシーグラスや貝殻を拾ったり、ウニを食べてもらったりするワークショップが目当てでもいい。最初はたった5分、たった1個のゴミを拾うだけでもいいんです」

まずは楽しむ。その上で、海の状況を知るきっかけになればと山下さんは考えています。

「わかめがなくなっても、そんなに困らないのではって思う人は、正直少なくないと思う。でも、わかめって人間が食べるためにあるだけではないんです」

魚の産卵場所であり、小さな魚たちの隠れ場にもなることから“海のゆりかご”とも呼ばれる藻場。海藻がなくなることで、漁業には大きな影響を与えます。さらに木々と同じように、二酸化炭素を吸収して酸素を吐き出すのも海藻の役割。海藻がなくなることは、私たちの生活だけでなく、生態系や環境にも大きな影響を及ぼすのです。

「陸と同じことが、海でも起こっている。でも陸と違って、海の中の問題は見えない分、分かりづらい。森の木が減ったら大切にしようって思うけれど、海の中のことって自分ごとに置き換えにくいんですよね。自分で知ろうとしないと、見えてこない。だから、まずは楽しそうって思ってビーチクリーンに参加してもらって、ちょっとだけゴミを拾って、海の問題を知ってもらう。まずは楽しんで、その上で海の現状を知る機会になればいいなって考えています」

そんなビーチクリーンには、ファミリーを中心に若い世代が多く参加しています。

「昔は毎月やっていたんです。気合を入れて『やってやるぞ!』って。でも、そういうのって続かないんですよね(笑)。真夏のビーチクリーンは熱中症のリスクもあります。続けることが大事だから今は、比較的気候がよく過ごしやすい4月と10月に開催しています」

好きな人が集まって作る「糸島の雰囲気」

ビーチクリーンをはじめとした、「Toi Toi (トワ トワ)」の取り組みは、徐々に認知を広げています。ビーチクリーンのほか、11月に開催するイベント「トワノワ」(「Toi Toi」の輪を広げたい思いから命名)は回を重ねるごとに規模を拡大。参加者も増え続けています。

そんな「Toi Toi」の姿をみて、地元の人たちにも小さな変化が現れました。「糸島のほかの地域でも、ゴミ拾いを独自に行う人たちが増え始めたのです。地域の小さな団体や友達同士10〜20人程度が時間があるときに集まってのゴミ拾い。『自分たちの近くの海だけでもやったほうがいいよね』って少しずつ広がってきていて、その雰囲気がいいなぁと思うんですよね」と山下さんは嬉しそうに笑います。

「遊びに来てくれる人も住んでいる人も、糸島が好きな人たち。糸島が好きな人同士で、糸島の自然をちゃんと守っていこうっていう、そんな雰囲気を作っていきたいんです。法令とかではなくて、形には見えないけれど、“雰囲気”を作っていきたい。糸島が出す空気感って、きっかけの一つになると思うんです。あの店に行きたい、あれを食べたいっていう確かな目的があるだけじゃなくて、きれいな海や砂浜の雰囲気が好きだから、なんとなく糸島に行こうかって。糸島にある店だって、糸島ならではの空気感がベースにあるから出店しているっていうのもあるでしょう。だからこそ、この雰囲気を守るためにちゃんとしていきたいな」

ウニ養殖のノウハウを全国の漁村へ

5年前にスタートした「Toi Toi」の取り組み。この夏には、いよいよ出荷できない海藻や野菜で育った養殖ウニがお目見えとなります。今後、山下さんが目指すのは、育てたウニを糸島で消費してもらい地元の資源を豊かにすること。そして、ウニ養殖のノウハウをパッケージ化して全国に広げることです。「ウニが原因の磯焼けに悩む人たちに、そのノウハウを伝えて町おこしに繋げてもらえたら」と意気込みます。

「糸島だって、10年、20年前は知られていなかった。そんな町は、全国にたくさんあるんです。田舎であれば、お客さんを呼ぶのに苦労するし、イベントをしようにもきっかけがないと難しい。だからまずは私が、糸島でウニ養殖の成功事例を作る。そして、まだ広く知られていないような漁村で、漁師さんたちがチャレンジできるようにノウハウを伝えていきたいですね。もしその町に田んぼがあったら、育てた米にウニを載せて食べてもらうっていうのもありでしょう。その土地のお米でウニごはんが食べられたら最高ですよね。そうやって、その地域ならではの空気感や雰囲気を地元の人たちが作っていって、町が成長できれば素敵だなって思うんです」

力を入れ過ぎることなく、楽しんでいるうちにいつのまにか糸島ならではの雰囲気づくりの輪の中にいる。山下さんを中心にゆるく、楽しく、でも確かにつむがれる“糸島らしさ”、今もその共感の輪はじわじわと広がっています。

語り部一覧

山下商店 /
山下浩典さん
山下商店 代表/山下浩典さん
福岡県糸島市出身。糸島産のわかめやひじきを扱う海藻メーカー「山下商店」を営む。2018年に、「海藻」を切り口に、美しい海を守るための取り組みを行うプロジェクト「ToiToi(トワトワ)」を立ち上げ。ToiToiでは、年に2回海の清掃を行う「ビーチクリーン」を開催するほか、漁師の方々と協働してウニの養殖などに取り組んでいる。

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