未来を創る人たち
愛を感じたものを選択する世界へ

三ツ矢青空たすきが目指す「日本の美しい自然と文化を100年先へ」。このコーナーでは、自然や文化に関連するさまざまな分野の中から、三ツ矢青空たすきがその活動に共感した方々にインタビューを行います。今回は、福岡県糸島市で活動する富松祥太さんにお話を伺いました。
富松祥太さん
1983年生まれ、福岡県久留米市出身。糸島市在住。約11年間、広告・事業プロデュース業に従事。伝えるコトの本質を問い、身近な選択について考えるキッカケを届けるため、2014年に独立し、移動式の八百屋「GOOD’S8083」を創業。また、2019年よりフリースクール「お山の樂校」を運営。
その他、子ども園まほろば、NPO法人いとなみの理事として、教育や環境再生などに従事。一人ひとりの選択が集まることで創られる「愛ある世界」を目指す。
まだ芽が出るかどうかもわからない“青い種”を蒔き続ける

ーー広告業界から独立して八百屋を始め、その後、フリースクールを立ち上げた富松さん。一見全く異なる道を歩んでいるように見えますが、今日はその道のりについてお話を聞かせてください。
いろいろやっているけど、自分がやっていることは“青い種”を蒔き続けることなんだなって思うんですよね。未熟な種に水をやるか腐らせるか。それは受け取った相手に委ねられていて、それでも僕は何回でも蒔き続けるつもりでやっているんです。「僕の愛とあんたの愛があって完成だぞ!」って伝えることが自分の役割だと思っています。
ーー“青い種”を蒔くことでことで何を伝えようとしているんですか。
ありのままでいいよ、愛してるよっていうことを伝えたいんですよね。例えばスーパーの野菜は、この形であるべき、こんな色であるべきっていうふうに、出荷しやすく売れやすい野菜が並べられています。でも、八百屋「GOOD’S8083」ではそれを一切使わずに、オーガニックでありのままの野菜を扱っています。昨日の雨が多かったら雨が多い味のする野菜を届けるし、野菜がない時期はないからといって遠くから仕入れない。野菜を揃える八百屋じゃなくって、ありのままを届けて「あんたもありのままでいいよ、愛してるよ」っていうことを伝える八百屋なんです。
ーー愛が溢れていますね。なぜ「ありのままでいい」ということを伝える必要があると感じたんですか。
20歳くらいの頃、仕事に悩んでいた友人を自殺で亡くしました。その時、僕たちは「ありのままでいい」という考えから程遠い世界に生きているんだと感じました。誰かのいう正しさだけが正しいと思い込んでしまうのは、正しいことを伝えていない側にも、正しいことを受け取れていない僕たちにも原因があると思います。その構図が幸せじゃない世界を生んでいるんじゃないかって。その後、リクルートに入社したんですが、その頃から伝えることで世界を幸せにするのが自分の仕事だと思うようになりました。
経済優先の「愛じゃない世界」はいやだ

ーーその後、広告業界を転々としたそうですが、当時の働き方はどうでしたか。
働き詰めだったけど、すごく楽しかったです。例えばコールセンターでマネジメント業務をしていた時期は、電話対応をユーザ目線に変えることで、「みんなで幸せになろうぜトーク」にしていきました。
ただ、消費者の注目を引くためにクライアントさんの商品開発にも口出しをするようなことがあって。それが気になり出したんですよね。僕は「ありのままの商品を伝えて売れなかったらそれでいいやん」って思っていたんですが、社内ではその意見は受け入れられなくて、そこからギクシャクするようになりました。
ーークライアントさんが良いと思って開発した商品を尊重したかったんですね。ギクシャクした状態から、その後どうなったんですか。
ある日、会社が福利厚生として持っていた畑で人参の間引きをしていたときに、「一人ひとりに命があって、心があって、愛があるのに、一緒くたにまとめて発信をして、売り上げを取るようなやり方は違うんじゃないか」って思いました。伝えることで世界を幸せにしているつもりだったけど、実は消費者を経済優先の「愛じゃない世界」をつくることに加担させてしまっているんじゃないかって。それで、広告業界を辞めることに決めました。
移動式の八百屋からお母さんたちが寄り合う八百屋に

ーーそこからなぜ八百屋を始めることになったんでしょうか。
最初は、伝える手段として八百屋になりました。誰に何を伝えられようと、自分がそこに愛を感じるかどうかで判断できるようにすることが一番だと思ったんです。それをまんべんなく人に伝えるためには「食」なんですよね。全員が共通して毎日食べる。大体1日3回食べるから、その機会に「全員生きてるんだぜ」って伝えられる。今思うとエゴだなと思うんですけど、当時は熱い想いがあって一人ひとりの目を覚ますんだ!っていう勢いで八百屋を始めました。
ーー人が自分で良いものを見極めて、選択できるようにするための手段が八百屋だったんですね。以前は移動式の八百屋だったそうですが、現在は発送に切り替えていると聞きました。その理由はなんですか。
移動式の頃は、朝早く起きて農家さんを1箇所ずつ回って野菜を迎えに行って、各地へ売りに行っていました。ありのままの野菜の良さが伝わっている手応えがあって、お店の前に行列ができるほどでした。
ただ、子どもが2歳半くらいの頃、子育て中の妻が「大変だから家に居る時間を増やして欲しい」と打ち明けてくれたんです。一度は八百屋をやめることを考えたんですが、この課題は僕たちだけに訪れているのではなく、他にも同じように困っているお母さんたちがいることに気がついて。そこで、お母さんたちが寄り合って野菜を梱包し発送するというやり方に変えて八百屋を続けることにしました。
ここは居場所であり仕事場であり、「あなたは最高です!」って全肯定する場所なんです。
ーーそうだったんですね。ここでも「みんなで幸せになろう」という想いを感じます。
八百屋紙芝居を通じて子どもたちと関わりはじめた

ーーそこからフリースクールを立ち上げることになった経緯を教えてください。
実は、八百屋のつながりなんですよ。もともと子どもが好きなんですけど、子どもはいつも大人に強制される存在だっていうジレンマがあって。子どもが「ラーメン食べたい!」って言うと、大人が「ハンバーグって言ってるでしょ!わがまま言わないの!」みたいなやりとりってあるじゃないですか。そういうのを見るとフェアじゃないなって、小さい自分が傷つくんですよね。
そこで、子どもたちに「ありのままって美しい」とか「お前って最高なんだぜ」っていうことを伝えたくて、八百屋紙芝居を作って読み聞かせを始めたんです。
ーーどんな紙芝居なんですか。
タコみたいな形やボールみたいな形の人参の絵を見せて「これは何だろう」って考えさせたあとに、いろんな形をした本物の人参を出してその場で子どもたちに丸かじりしてもらうっていうパッケージなんですけど。「どんな形の人参も喜ばれるでしょ。だからみんなも誰かに喜ばれると。だから全員OKなんだぜ!」って伝えるんです。
その活動を見たある保育園の園長から声がかかって、週に2回保育園のスタッフとして働くようになりました。それが子どもたちと関わるようになったきっかけです。
ーー八百屋をしながら保育園のスタッフもするようになったんですね。
その保育園は子どもの世界を大事にしていて、自然農で田んぼを作ったり、外遊びをたくさんしたりするような伸び伸びした保育園なんですね。でも、子どもたちが卒園して公立の小学校に入ると、トイレに行くのにも許可がいるし、机を並べる位置も決まっている。他の選択肢として近くのフリースクールに入りたくても定員がいっぱいで入れない。もどかしい気持ちが年々募ってきたときに、あるお母さんから「一緒に学校を作りたい」と言われたのがきっかけで「お山の樂校」を立ち上げることになりました。
子どもたちが自分で話し合い、自分たちで決める

ーー「お山の樂校」での最近の様子を教えてください。
「お山の樂校」では、子どもたちが自分で話し合い、自分たちで決めることを大切にしています。今年の7月には修学旅行で奄美大島に行ったんですが、子どもたちが自分たちで行きたい場所や引率するスタッフを決めたり、宿泊するホテルに手紙を書いて価格交渉をしたりしました。旅行先では、子どもたちが壁にぶつかるたびに学校では見せないようなお互いの本性が見えてよかったです。
ーーそれは達成感がありそうですね。
修学旅行から帰ってくると、新たな決断をする子や、率先して後輩に何かを教える子が出てきました。自分たちで何かを乗り越えたという自覚によって、自分の本当の気持ちに気づいたり、自信につながったりしているんだと思います。
日本の美しい自然と文化を100年先へつなぐために

ーー愛情たっぷりなお話をありがとうございました。最後に、日本の美しい自然と文化を100年先へつなぐために必要なことは何だと思いますか。
一人ひとりの愛ですね。その愛で目の前にある課題を解決することが、世界の課題を解決することなんだと思います。家族が大変なら心を向けて共に歩み、子どもが「こっちを向いて」とゴネていたら、仕事も何もかも手を止めて、まずは子どもを抱きしめる。一人ひとりが愛を持って行動していけば、100年先の美しい自然や文化も残ると思います。
広告業界から八百屋、そして、フリースクールと一見全く異なる道を歩んでいるようですが、そこに一貫したものが見えてきました。それは、ありのままでいいこと、そして、自分で愛を感じるものを選択することの大切さを伝えているということでした。
今までにも何度も「ありのまま」という言葉を聞いたことがありますが、富松さんから発せられるその言葉には特別な温かさがあります。八百屋の営業日には、お母さんたちやその子どもたちだけではなく、山羊や猫、近所の犬も集まってきました。まさに「みんなで幸せになろう」を体現しているような光景に、私もその愛に包まれたような気持ちになりました。
写真提供/富松祥太さん
取材・文/栗原和音
撮影/弥永浩次
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