未来を創る人たち
海の“ゴミ”をお宝に変える
三ツ矢青空たすきが目指す「日本の美しい自然と文化を100年先へ」。このコーナーでは、自然や文化に関連するさまざまな分野の中から、三ツ矢青空たすきがその活動に共感した方々にインタビューを行います。今回は、福岡県糸島市の海を中心に活動する三井真由美さんにお話を伺いました。
三井真由美さん
一般社団法人イドベタ 代表
2010年、地元福岡市から糸島市へ移住。映像ディレクターとしてテレビ番組の取材をする中で、環境問題に興味を持つ。
2021年、「豊かな地球環境を未来へ残したい」という想いで「イドベタ」を結成。糸島市を中心にビーチクリーンやアート作品の制作をプログラムに加えた体験型のサスティナブルツアーを企画している。2023年、「イドベタ」の拠点として糸島市の前原商店街に「めぐるラボいとしま」をオープン。
I do better から We do better のうねりを
ーーまず、イドベタとはどういう団体なのか教えてください。
イドベタは、「I do better × We do better = eco friendly」というテーマを掲げています。一人ひとりの活動がつながり、輪になって、「We do better」のうねりを起こしてeco friendly(環境にやさしい)な活動になることを目指して活動しています。
この「I do better」の「I do」をローマ字で読むと「イドベター」となり、井戸端会議を連想します。「イドベタ」には、井戸端会議のように仲間と気軽に集い活動するという意味も込められているんです。
ーー井戸端会議のように集うという発想はどこからきているんですか。
以前から、どこかに遊びに行ったついでにメンバーと話したアイデアがそのまま事業になることが多くて。イドベタは、そうした自然な発想で仕事をしてきたメンバーの集まりなんです。日頃からそんなふうに生きているメンバーの特徴を表す言葉として、「井戸端会議」を連想する名前にしました。
また、博多弁で「海沿い」を「海べた」って言うんですね。私たちは海洋環境問題について考えることを一つの軸にしているので、あえて「ベタ」という言葉にしています。
ーー日常の会話から生まれたアイデアを事業にするって素敵ですね。環境問題の中でもなぜ海洋環境に取り組むことになったんですか。
もともとは、2019年頃、海洋環境問題を研究している「九州大学うみつなぎ(※1)」という団体の環境教育プログラムに、アーティスト1名とテレビディレクター2人で参加したんです。その後、大学のアカデミックな活動に関わる中で、子どもたちにはもっと遊び半分で環境問題にふれて欲しいという想いが強くなっていきました。そこで、よりフランクに環境活動に取り組めるフィールドづくりをするためにイドベタを立ち上げました。
大好きな海に地層のように積み上がっていたゴミ
ーーもともと、三井さん個人としては海とどのような関わりがあったんですか。
私の父が警察官で、小学生の頃にその社宅で暮らし始めました。その場所が福岡市の百道(ももち)というエリアで、台風のときには家に波がかかるくらい海に近い位置だったので、子どもの頃の遊び場といえば海でした。 当時は塩干狩りをすると貝がたくさん取れていたので、そこらへんに落ちている鍋と海の水で貝を煮て友達と食べたり、わかめを取って帰ってご飯のおかずにしてもらったりもしました。
私がそうやって海と触れ合って幸せに生きてきたので、私の子どもも海のそばで暮らしてサーフィンとかして自然に触れ合っていれば、健やかに育つかなと思って、15年前に糸島市に移住しました。
※2020年12月の漁業法改正により、現在は許可されている場所以外での潮干狩り等が禁じられています。
ーー海に親しんできたんですね。環境問題にはどのように関心を持ったんですか。
2016年くらいかな、テレビのディレクターとして番組をつくっている中で、毎日ビーチクリーンをしているサーファーがいるっていうのを聞いたんです。「え、何それ」って。最初はその方を取材して、海のゴミ問題を知りました。
取材すると目線が変わって、ゴミを見つける目=「ゴミ目」と私は呼んでいるんですが、ゴミ目になるんですよ。ゴミ目で海岸を見渡すと、実は砂の間にゴミが埋まってて、「これ、何十年前のゴミだろう」みたいなビニール袋とかがたくさん地層のように積み上がっているのに気がついて、ちょっと泣いちゃって。大好きな海がそんなことになっていたんだっていうのを知らなくて。
ーーそれはショックでしたね。
それから「環境問題しか扱いたくない」って周りの人に言っていたら、いつの間にか「環境ディレクター」と呼ばれるようになっていました。海の環境番組を担当するなどメディアを通じた発信を10年くらい続けた頃に、「九州大学うみつなぎ」の活動に参加しました。その経験から、メディアを通してだけではなくリアルに直接伝えることの大切さにも気づき、今に至っています。
ゴミ拾いが宝探しになるワークショップ
ーーイドベタでは海でどのようなワークショップを行っているのか教えてください。
冬の時期は、海で拾った漁網を使って子どもたちと一緒にクリスマスツリーを作っています。海の中のゴミの半数ぐらいの量がこの漁網などの漁具といわれていて、他の生活から出たゴミも含めた「ゴミベルト(海流の影響によって特に海洋ごみが集中している海域のこと)」っていうのが太平洋の中にあって、漁師さんたちが魚を獲るために沖に船を出すんだけど、「今日はゴミしか取れんやった」という日もあるそうなんです。しかもどこの国の誰が捨てたものかわからない。
ーー「ゴミベルト」って悲しくなる言葉ですね。それにしても、なぜクリスマスツリーなんですか。
イドベタのメンバーであるアーティストのしばたみなみちゃんが、10年くらい前から海洋プラスチックを使ったアート作品を作り始めていて、今では海外からも呼んでもらえるようなアーティストになっています。作品を見た人には「これ、ゴミでできているんだ」っていう驚きと気づきがあって。それって啓発につながるじゃないですか。
こちらから押し付けずに、自分で気づいてもらわないと持続可能な環境活動にはならないと思っているので、それを解決するには自分はどう動いたらいいかというのを自ら考えてもらうようなワークショップを開いています。
ーーアート作品をつくりながら、海洋ゴミの問題を知ってもらったり、自分の暮らしを振り返ってもらうことがねらいなんですね。
実はそういう深い意味があるんですけど、子どもたちの前にチャラッと現れて「一緒に遊ぼうぜ」みたいな感じで遊んでいます。
プラスチックって人類にとって世紀の大発明なんですよね。最初にできたプラスチックは、ビリヤードの玉。何百年も前にビリヤードが流行った時代、その玉は象牙でできていたので、象を乱獲して牙を取るということが行われていました。動物を守るために代替品として生み出されたのがプラスチック。
だから、「プラスチックはいらない」という活動をするんじゃなくて、先人がプラスチックを発明したことに感謝をして、今の生活にも感謝をするというスタンスで活動しています。
ーー環境問題っていうと暗いイメージをしてしまいますが、三井さんたちは明るい雰囲気をまとっていますよね
ワークショップでは、まず紙芝居を見せて「プラスチックって環境を守るために誕生したんだよ」っていうことをきちんとお話しします。そうすると、ビーチクリーンで宝探しが始まるんです。もう争奪戦。宝探しの後は、それが自分にとって大事な一点物になるんですよね。もともとは同じ型で作られたプラスチックだとしても、海の波や岩にこすれて形が変わったりするから、海で拾うと一点物になる。その大事な一点物を漁網でできたこの特別なツリーに飾ってもらいます。
海に落ちていたらゴミじゃないですか。でも、飾るとかわいい。「ゴミ」と「かわいいもの」のすみわけって自分の感性で捉えるものだから、私たちが「かわいいよね」って伝えるんじゃなくて、子どもたちに自分で感じてもらいます。
ーーゴミ拾いじゃなくて宝探し、ゴミだけどかわいいって新鮮です。実際に子どもたちはどのような感想を持つんでしょうか。
「楽しい」で終わる場合もあるけど、ずっとやっているうちにプラスチックっていうのはゴミじゃなくて本来は「資源」という宝物で、それをより良く使っていくためにゴミの分別をしてるんだっていうことに自分で気がつく場合もありますね。
モノ・ヒト・マチがめぐる資源循環施設 めぐるラボいとしま
ーーなぜ、「めぐるラボいとしま」をオープンすることになったんでしょうか。
めぐるラボいとしまは、「モノ・ヒト・マチがめぐる資源循環施設」と謳っています。こうやってワークショップでできた作品をサーキュラーエコノミー(循環型経済)にのせないと、結局作ってまたゴミになるかもしれないという課題を感じていました。また、以前からバラバラで「I do better」をやってるメンバーが「We do better」をする拠点が必要だと感じていたんです。
そこで、地球環境にやさしい商品を扱う事業者さんを集めたシェアショップとして「めぐるラボいとしま」をオープンすることにしました。今年のワークショップでは、子どもたちのアート作品をコンテスト形式で発表してもらい、優秀賞に選ばれた子どもの作品はここで販売する予定になっています。
ーーメディアを通じて発信をして、次にリアルで伝える場の必要性を感じて、その次に経済にのせる場の必要性を感じたということですね。
あと、商店街に拠点を構えるメリットは、子どもたちが自分で電車に乗って来れることなんですよ。海だと車がないと来れないけど、商店街だったら子どもたちが自分で来れるので、ここがワークショップの会場になったらいいなと。
ーーワークショップに参加できる子どもたちの層が広がりそうですね。めぐるラボいとしまにはどのような事業者さんが入っていらっしゃるんですか。
例えば、バンド活動やDJをしている龍くんは、黒い海洋プラスチックを使って「Vレボリューションマックス」というスピーカーを作っています。この海洋プラスチックは粉砕が大変で厄介者なんだけど、スピーカーにしてみたら良い音がしたんです。
他にも、牛乳パックを革のようになめしてバッグやアクセサリーにして販売しているミルクぱく子さんなど、個性豊かな方が出店しています。
ーーどれもゴミからできているように見えないですね。
環境活動をサーキュラーエコノミーにのせるには、ゴミをゴミに見えなくすることが重要で、それはアーティストさんの腕にかかってるところがあります。そこには、彼らが今まで積み重ねてきた人生や経験が詰まっているので、そういうことも子どもたちにも知ってもらえる場所になったらいいなと思います。
日本の美しい自然と文化を100年先へつなぐために
ーー海に想いを馳せながら、ゴミのイメージを大きく覆される時間になりました。最後に、日本の美しい自然と文化を100年先へつなぐために、これからやっていきたいことは何ですか。
100年先は絶対生きてないじゃないですか、私たち。でも、海の中には1億5000万トンっていう想像できない量のゴミがあると言われているんですね。今も、30年後には海のゴミが魚の量を上回って魚が食べられなくなるんじゃないかって言われていて、それがもう目の前まで迫っているのに私たちの代では絶対に解決できない。
でも、「Vレボリューションマックス」などのアイデアを見ていると、革命が起こせるのではないかと思うんですよね。要は、「めぐるラボいとしま」を「ゴミと呼ばれているものがお宝に変わる場所」にしたい。この考え方が子どもたちに受け継がれて、新たな研究者や経営者が生まれたりして、100年後には海のごみがゼロになって、本来の海の姿に戻ることができたら嬉しいですね。
注釈
(※1)「九州大学うみつなぎ」は、「日本財団~海と日本プロジェクト~」の一環として福岡の海や自然をフィールドに、持続可能な循環型社会と海ごみ問題をテーマに活動するプロジェクトです。
めぐるラボいとしまがある場所は、築80年以上の元化粧品店。長らく閉じていたシャッターを開け、そこに眠っていた古い木箱や家具を目にしたとき、イドベタのメンバーは思わず「かわいい」と言ったそうです。環境活動というと真面目でシリアスなイメージがありますが、三井さんの周りには、モノを愛しむ感性とユーモアが漂っていました。
取材・文/栗原和音
撮影/弥永浩次
ぺんぎんさん
キリないし、追いつけないけど、大切な活動だと思います。
こんにちは。
私も地元横浜で「ヨコハマ海洋市民大学」の活動に参加して、マイクロプラスチック問題を微力ながら考えています。毎週日曜川沿いのゴミ掃除も自治会プラス公園愛護会でしたりもしています。
Vレボリューションマックスも、牛乳パック再利用もビーチクリーンからの再利用もすばらしいですよね。なかなか難しいんですが、実際に見に行きたいものです。
更なる活動の話もお聞きしたいです。
三ツ矢青空たすきスタッフ
共感のコメントお寄せいただき、本当にありがとうございます。
ぺんぎんさんは地元の市民大学で学んだり、クリーン活動などに積極的に参加されているのですね。素晴らしいです!
こうした活動の仲間の輪がますます広がっていきますように。
よりよい未来を創る取り組みをお伝えすることで皆さんの励みになったり、活動の参考になりますよう、私たちも、どんどん情報発信していきたいと思っています。