語り部読みもの
都会と田舎をゆるやかにつないで10年。いとしまシェアハウスが目指すもの
地方や田舎暮らしを魅力的に感じても、都会での暮らしをガラリと変えて移住するのはハードルが高い……。そうお考えの方にぜひ知ってもらいたいのが、さまざまなアクティビティで都会と田舎をつなぐ「いとしまシェアハウス」です。シェアハウスを運営する志田浩一さんは東京生まれで、都会も田舎も、それぞれの良さもよく知っている人。私たちが心地よいと思える距離感で田舎とつながるヒントを求めて、いとしまシェアハウスを訪ねました。

かつて暮らした八ヶ岳の麓のような心地よさ

まるで鏡のように空を映す棚田。その向こうには、玄界灘を望む美しい景色が広がっています。「いとしまシェアハウス」があるのは、初心者向けの登山で人気の二丈岳の麓。ここで、志田浩一さんは妻の畠山千春さんとともにシェアハウスを運営しています。
「海と山、それに棚田があって、星が綺麗なところがいい。そう決めてから、いろんなところをドライブしていたら、偶然ここを見つけたんです。ちょうど『空き家あります』の張り紙があって、ピンときてすぐに電話しましたね」。

もともと福岡には縁もゆかりもなかったというお二人ですが、2013年に糸島に移住。築80年以上の古民家を改修して、シェアハウスをオープンしました。
「僕は東京生まれですが、13歳のときに山梨県の八ヶ岳に両親とともに移住しました。両親だけでなく、僕も田舎暮らしが肌に合っていて、食べものもおいしくて楽しかった。その後、料理を学ぶために上京しましたが、八ヶ岳での生活を原体験に持っているためか、満員電車や人混みなど、都会での暮らしにストレスを感じていたんです」。
もともと東京で長く暮らすつもりはなく、田舎に帰るつもりだった浩一さんですが、「そろそろ東京を離れよう」と決めた年に東日本大震災を経験しました。
「水や食べ物、ガソリンといった物資が不足。その経験から、自分たちが必要とするものを、自分たちで作ることができたら…と考えたのです。もともと、僕も妻の千春も、自然のなかでコミュニティを作ることに興味があったから、一緒に行動してくれる仲間を求めて、田舎に移住したんです」。
田舎との関わり方も人それぞれ

そんな経験もあって、いとしまシェアハウスのコンセプトは、「食べもの・お金・エネルギーを自分たちでつくる」こと。米や野菜を栽培するだけでなく、山で猟をしたり、養蜂で蜂蜜を得たりして食べ物を自給。調理や暖房で必要なエネルギーとして、薪を生活に取り入れています。
「僕らはごりごりに田舎暮らしを実践してます。スローライフじゃなく、かなりハードに(笑) でも、田舎に来たい人全員が、そうしないといけないわけじゃないと思います」。
浩一さんはからりと笑いながら、自らの暮らしについて話します。

「新しい生活が、自分にとって楽しいか、心地いいかが大事なんです。そうじゃないと、続けられないですから。でも、どれくらいが楽しいかは人によって違います。1kmだけ軽くジョギングしたい人と、フルマラソンに出たい人が、それぞれいていい。同じように、住むまでもないけど田舎に入ってみたいという人がいてもいいんです。そんなふうに田舎とのいろんな関わり方が増えて、関係人口を増やしていけたらと思っています」。
「生産性」では計れない、人と関わることの価値

そんな「多様性」が生まれる舞台のひとつが、いとしまシェアハウスから歩いて5分の距離にある棚田です。シェアハウスがある集落の住人たちが数反ずつ所有していますが、近年は高齢化や跡継ぎ不足などで耕作放棄地となる田んぼが続出。移住してきた当初に小さな田んぼをひとつ借りた浩一さんは、もう管理ができないからと、今は7反の田んぼの管理を任されています。

この棚田を利用して、浩一さんたちは2018年に「棚田のオーナー制度」をスタート。都市部やまちに暮らす人たちに、棚田の共同オーナーになってもらい、田植えや収穫といった里山文化を体験してもらいながら、美しい里山の景色を未来に残す取り組みを行っています。
地域の人が大切にしているものを大切にし、一緒に作っていく

とはいえ、たった18世帯しかなく、60代でも若手といわれる小さな集落に引っ越してきた当初は、浩一さんたちも「よそもの」でした。
「ここには田舎ならではの人間関係があって、煩わしさがまったくないわけではないけれど、信頼関係ができてくると、田んぼや畑が空いたときに『やってみない?』って気軽に声をかけてもらえるようになる。だから信頼を得るために、一個ずつミッションをクリアしていくんです」。
浩一さんが”ミッション”と例えるのは、地域の役員や消防団への参加、神社の清掃などさまざま。シェアハウスのメンバーは、このような地域の活動に積極的に参加しています。すると関係性にも徐々に変化が。当初は、地元の人にとってはよくわからない存在だったシェアハウスでしたが、今では初めて見る若者が現れても「シェアハウスの人でしょ」と声をかけてくれるといいます。

「よそもの・そとものの僕たちだけど、地域活動に参加することで、自分たちと同じものを大切にしてくれるということが伝わったのかなって。都会だとお金を払えばサービスが受けられますが、ここでは自分たちで手を掛ける労力が必要なんです。いま自分の手元にあるものも、自分たちで作ってプロセスやバックグラウンドを知れば、愛着を感じる。サービスを受けるだけでなく、生活を自治していく楽しさを実感しています」。
都会へのUターンで、都会と田舎の関係はもっと良くなる

オープンして10年目を迎えた今、いとしまシェアハウスが目指すのは、都会と田舎の間をつなぐ存在です。
「僕は、”都会へのUターン”がもっと増えたらいいなと思っているんです。都会での経験を生かして、地域活性化のために働く。その逆で、都会で生まれた人が田舎を経験してから都会に帰ることで、見えてくるものがあるんじゃないかな」。
そのためには、田舎と都会の行き来をもっとスムーズにしないといけないと、浩一さんは言います。
「田舎にずっといると都会のことがわからないし、都会の人も田舎のことはわからない。もっとストレスなく行き来ができるようになって、お互いを知ることで共感性を高められるようにしたい。そのために、ここでさまざまなアクティビティを用意しているんです。知ることで、自分自身の生き方の幅も、もっともっと広がると思いますよ」。
その地域の風を知り、食べ物を知り、人を知る。地域の魅力が自分ごとになれば、都会にいながらでも関わったり、支援したりすることもできる。過去の自分を捨てて大きく自分を変えなくとも、心地よい距離感で関わることができると、浩一さんの生き方が教えてくれているかのようでした。
この記事を読んでいとしまシェアハウスさんの体験が気になる方はこちらから▼
いとしまシェアハウスに学ぶ。自分たちでつくり、“シェア”する暮らし
そうせいさん
やなはた
楽しすぎる
三ツ矢青空たすきスタッフ
コメント、ありがとうございます*
いとしまシェアハウスの暮らしをさらに知ることができる、千春さんのエッセイ「ちはるの糸島ナチュラルライフ」もお楽しみください。
https://mitsuya-aozoratasuki.asahiinryo.co.jp/yomimono/?theme%5B%5D=natural_life
原 政伸さん
頑張る地球人
素敵な戦いを、ご苦労さまですね。負けずにたくましく、生き延びて下さい。
三ツ矢青空たすきスタッフ
いとしまシェアハウスの皆さんへのエール、ありがとうございます!
私たちスタッフも彼らの暮らしぶりに感動しています。
あおちゃんさん
初めて
初めて拝見しました。
今の私の環境と違っているので想像がつきません。
三ツ矢青空たすきスタッフ
こちら、昨年、私たちの活動が始まった当初に掲載した読みものへの 〝初めて” のコメント、ありがとうございます*
糸島市を中心に、様々な環境を垣間見ることができますので、お時間ありましたら、ぜひ他の読みものも ご一読ください。