未来を創る人たち
「前原」で学生が紡ぐまちづくり(後編)

三ツ矢青空たすきが目指す「日本の美しい自然と文化を100年先へ」。このコーナーでは、自然や文化に関連するさまざまな分野の中から、三ツ矢青空たすきがその活動に共感した方々にインタビューを行います。今回は、福岡県糸島市の前原エリアを中心に活動する九州大学ENGAWA Project (エンガワプロジェクト) のみなさんにお話を伺いました。前編はENGAWA Project全体のお話と古民家をゲストハウスにした「AD9」のお話、後編は個別のプロジェクトとして「マエバルウォーク」と「ラヂオいとしま」のお話をお届けします。
井寺智咲(いてら ちさき)さん
九州大学工学部3年
ENGAWA Project 4代目リーダー
古民家改造オープンスペース「AD9」、ギャラリー「深淵のカシスシャーベット」、前原の飲み歩きイベント「マエバルウォーク」の3つのプロジェクトに所属。好きなことはいろんな人とお話しすることで、現在もリーダー育成プログラムや地域活性化プログラムに参加し、経験を積んでいる。越えられない壁はないと信じて、自分の将来に活かすため様々なことに日々挑戦している。
加藤千穂(かとう ちほ)さん
九州大学共創学部3年
ENGAWA Project 古民家改造オープンスペース「AD9」3代目リーダー
古民家改造オープンスペース「AD9」、ギャラリー「深淵のカシスシャーベット」の2つのプロジェクトに所属。徳島県出身で昔から地域コミュニティという繋がりの中で生活をしてきた。現在は、人と関わる中でしか得ることのできない幸せの存在を知り、自分を含め周りの人たちが幸せになれる空間づくりに取り組みたいと思っている。
櫻木彩乃(さくらぎ あやの)さん
九州大学農学部1年
ENGAWA Project 前原の飲み歩きイベント「マエバルウォーク」2代目リーダー
「つながり」が好きで、いろいろな人との出会いを大切にしている。農業に興味があり、農家さんや自然とふれあう機会を計画中。大切にしている言葉は「できるかできないかではなく、やるかやらないか。」今という貴い時間を精一杯楽しみたいという気持ちで活動している。
伊藤かのあ(いとう かのあ)さん
九州大学共創部1年
ENGAWA Project 「ラヂオいとしま」4代目リーダー
東京都出身。森林、林業に興味があり、大学生の間は第一次産業全般を学ぶことを目標にしている。特に大学生活では運と縁に恵まれてると感じる日々を送っており、それが続くような人柄であり続けたいという気持ちで日々を過ごしている。
飲食店や参加者をつなぐ「マエバルウォーク」

ーーでは、前原の飲み歩きイベント「マエバルウォーク」のリーダーを務める櫻木さんにお話を伺います。「マエバルウォーク」とはどのようなイベントでしょうか。
「マエバルウォーク」は、糸島市前原にあるゲストハウス「ことのは」を運営する野北智之さんと野北佳奈さんが、2018年11月に始めた飲み歩きイベントです。このイベントは、飲食店同士の横のつながりを深めることや、地域の皆さんが自分の住む街をもっと楽しめるようにという想いから企画されました。
ーー2024年の5月に開催された「マエバルウォーク リターンズ」は、野北さんたちからENGAWA Projectが引き継いで新しい体制で開催されたと聞きました。
(※1)マエバルウォーク リターンズ:野北智之さんと佳奈さんからENGAWA Projectが引き継いだ初回のマエバルウォーク
参考:https://www.instagram.com/maebaru_walk/
野北さんたちもこのイベントを残したいという思いがあったものの、他にも様々な活動をされているので、だんだん続けるのが難しくなってきたんだそうです。そこで前原で活動するENGAWA Projectが引き継ぐことになりました。
ーーきっと野北さんたちから信頼されているんですね。
私は今大学1年生なので、ENGAWA Projectに入った2週間後に初めて5月の「マエバルウォーク リターンズ」に参加しました。当時マエバルウォークのリーダーを務めていた先輩と私の2人で飲食店を周ったときに、店主の方が先輩に「一緒に頑張っていこうね」って声を掛けている姿を見て、すごくつながりを感じました。「前原を良くしたい」、「この活動を広げていきたい」という想いが一緒になっているなって。
ーー櫻木さん自身もイベントの参加者と参加してみてどのような感想を持ちましたか。
他の参加者の方と、普段であればたまたま同じお店に入ったというくらいじゃ話さないことも話すことができて、境界線が薄れる感じがしました。みんな「マエバルウォーク リターンズ」に参加している仲間っていう感じで。私にとって人とのつながりがわくわくの源になることが多いので、すごく魅力的なイベントに感じました。
さらに参加店舗を増やして特別な夜を

ーー櫻木さん自身のことも教えてください。ENGAWA Projectに魅かれた理由はなんですか。
私はご飯を食べることが好きなので、正直、新入生歓迎会(以下、新歓)のご飯会に釣られて参加したのがきっかけなんですけど、そのときの雰囲気がすごく良くて。新歓という名目で特別なおもてなしをしているんじゃなくて、いつもの日常を見せてくれているようなアットホーム感がありました。
ーーご飯を食べることが好きな櫻木さんが「マイバルウォーク」のリーダーを務めたらどうなるのか楽しみですね。リーダーを務めるにあたって、次回はどんなイベントにしたいですか。
「マエバルウォーク」は「化学反応を起こす」というビジョンを掲げて取り組んでいます。理想は、そこで新しい出会いが起きて、やりたいことを語る場が生まれて、その結果「一緒にイベントをしようよ」ってなったらすごく素敵だなって。そんないつもとは違う特別な夜にしたいと思っています。ここのお店が美味しかったからもう一度その店舗を訪れるとか、出会った人と連絡先を交換してまた一緒に飲むとか、何かagain(再び)が起こるようにしたいです。
ーーもっと化学反応が起こるように働きかけるんですね。次回に向けてもう準備が始まっているんですか。
次回は2025年2月19日(水)、20日(木)に開催予定で、2024年の12月から告知を始めようと思っています。
ーーずいぶん準備が早いんですね。
ENGAWA Projectの「好きにする街」っていうコンセプトがすごく自分に合っているなって思っていて。その好きっていう気持ちを持ち続けながら活動するためには、時間が足りなくてストレスフルになることはできるだけ避けた方がいいと思うので。次回はさらに参加店舗を増やして特別な夜をお届けしますので、ぜひお越しください。
好きなことを発信する「ラヂオいとしま」

ーー最後に、YouTubeチャンネル「ラヂオいとしま」のリーダーを務める伊藤さんにお話を伺います。まず、「ラヂオいとしま」はどのように始まったのでしょうか。
「ラヂオいとしま」は、糸島市に地上波のFM局がないという理由から、熱い想いを持つ大人たちが立ち上げた番組です。ただ、放送設備を整えるには時間とお金がかかるので、まずは手軽に始められるYouTubeで配信しようということになったそうです。糸島市には様々なバックグラウンドを持っていて、面白いことを考えている大人がたくさんいるので、ゆるく気ままに発信できたらいいよねって。
ーーそこにENGAWA Projectも加わったんですね
はい。 当時ENGAWA Project「iTOP(※2)」で広報を担当していた先輩に「大学生も一緒にやってみないか」と声がかかり、毎週木曜日にENGAWA Projectの母体である「iTOP」も 放送枠を持つことになりました。ENGAWA Projectはその一部を担当していて、ラジオではなく動画コンテンツを配信しています。
(※2)iTOP:ENGAWA Projectの母体となる学生団体
参考:https://itopitoshima02.wixsite.com/itoshima-info
ーー「iTOP」の放送枠の中で動画コンテンツを配信しているんですね。具体的にはどのようなコンテンツを配信しているんですか。
「九州大学で蛍を見てみた」とか「前原の人と一緒に料理を作ってみた」とか、いろんなコンテンツがあります。やってみると、コンテンツにしないとやらなかったこととか、コンテンツにしたから気づくこととか、新しい気づきがたくさんありました。
いろんな大人に出会って常識が外れた

ーー伊藤さん自身のことも教えてください。ENGAWA Projectに入ろうと思った理由はなんですか。
私は将来、過疎化している地域で森林を軸に何か取り組みたいと思っているんですけど、いろいろなプログラムに参加する中で森だけをどうにかしようとしてもダメなんだなってことがわかってきました。結局、人が足りない、お金がない、誰の森かわからないとか。それで、私がやりたいことは社会学的なアプローチだなと思って、まちづくりに関われるサークルを探していたときにENGAWA Projectに出会いました。
ーーその中で、どうして「ラヂオいとしま」に所属することになったんですか。
他の部活にも入っているので、どのプロジェクトに入るにもスケジュール的に難しくて。そこで、もともとラジオを聞くのが好きだったので「ラヂオいとしま」に入ることにしました。
ーー部活と両立できるのが「ラヂオいとしま」だったんですね。伊藤さんがリーダーとしてプロジェクトを引き継ぐ際に、難しく感じたことはありますか。
引き継ぎでは「好きなことをやっていいよ」と言われました。ENGAWA Projectの中の他のプロジェクトに比べると、なぜやりたいのかとか、こういうことを発信したいんだっていうことが明確にあるわけではなく、自由にやっていいよっていう感じなんです。
ーー結構自由なんですね。配信をする中でどのような経験をしましたか。
「iTOP」の枠ではないんですけど、私は馬場さんが担当する「みんなの夢ラヂオ2」っていう番組のMCパートナーもやっているんですね。私に成長してほしいからという理由で、毎回馬場さんが私に会わせたいゲストの方を選んでくださるんです。普通の大学生活や部活だけをやっていたら、そんな大人とは絶対に会わないんですよね。
ーー様々なゲストに会ってみてどう感じましたか。
私は、就活する気もないし就職する気もないので、どうやって生きていこうかなってお先真っ白で。スーツを着て満員電車に乗って仕事をすることは、私には絶対できないなと。でも、馬場さんが呼んでくださるゲストの方々に会うことで「生きていく方法っていろいろあるんだ」ってわかってきて常識が外れました。
ーー大学に入学してわずか1年も経たないうちに、過去の常識が外れるほどの変化があったなんてすごいです。
「ラヂオいとしま」を通していろんな大人に会ったことで、今はお金をかけない幸せもたくさんあるし、お金をかけない幸せを自分で作ることもできるなと思います。ENGAWA Projectも糸島市も、いろんな地域から来ている人がいて、いろんな感性がぶつかり合っているのに、一つのことを一緒に頑張っているのが魅力の一つだと思います。カオスが成立してる。
半年に1回解散しながら活動をつなぐ

ーー最後に、もう一度リーダーの井寺さんに質問です。ENGAWA Projectは、半期に1回リーダーが交代すると聞きました。どうしてこの仕組みを導入しているのか教えてください。
実は、リーダーが交代するだけではなく、半年に1回全員解散するということになっているんです。これには、貴重な大学生活の時間を本当にENGAWA Projectに使っていいのかを確認するという意図があります。
ーーいわゆる「幽霊部員」はいないということですね。その仕組みを採用することで何か手応えを感じていますか。
実は、私もENGAWA Projectを続けるかどうか迷ったことがありました。でも、半年に1回考える機会があって、その中で3期連続リーダーをするという決断をしてきました。そうして決断したメンバーと活動できているからこそ、楽しく活動できていると思います。
もともと、糸島という場所は、彼女たちにとってたまたま大学のキャンパスの近くにあっただけの場所だったかもしれません。そんな糸島で、地域の方々や先輩たちの想いを引き継ぎながら、自分の「好き」や「わくわく」を重ね、新たな想いを紡いでいく学生たちの姿から学ぶことがたくさんありました。様々なものを「好きにする力」を持つ学生たちの活動が全国に知られ、多くの人々を魅了する日が楽しみです。
写真提供/ENGAWA Project
取材・文/栗原和音
撮影/弥永浩次
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