ちはるの糸島ナチュラルライフ
第7回:優しく見守って!ミツバチの引越しシーズン
※ 7話目
※今回のお話は、ミツバチの写真がたくさん登場します。
苦手な方は閲覧にご注意ください

こんにちは。糸島で「食べもの・お金・エネルギー」をつくる“いとしまシェアハウス”を運営する畠山千春です。
春の風が頬を撫でる季節。ポカポカと暖かい日のお昼過ぎは、家にいても、畑にいても、どうにもソワソワしてしまいます。どこかでブンブンと虫の羽音がしてこようものなら、すぐに空を見上げたくなるんです。もしかしたら、あの子たちが来てるかもしれないから。
そう、私が探しているのは“ニホンミツバチ”。
4月は人間だけでなく、ミツバチにとっても「お引っ越しシーズン」。専門的には「分蜂(ぶんぽう)」というのですが、群れの中に新しい女王蜂が生まれると、元の女王蜂が「じゃ、私たちは新しい場所を探しに行くね」と、働き蜂を半分くらい引き連れて旅に出ます。
これは春から初夏に向けて気温が20度以上になる頃に始まり、地域によっては3月中旬から5月くらいまで見られることがあります。そのときの光景が、息をのむほど美しいんです。
数万匹もの群れが一斉に飛び立つ姿は、まるで生きている雲のよう。自然が生み出す壮大なアートですね。空を埋め尽くす蜂たちの迫力とその力強い羽音に胸が高鳴ります。

大量の蜂の群れを想像するとちょっと怖いかもしれませんが、彼らは長旅への備えのため、引越し前にお腹いっぱいに蜜を溜めてから旅立つので、とっても穏やか。人を刺したりすることはほとんどありません。
飛び立ったミツバチたちは、新しいすみかを見つけるまでの間、木の枝や建物の軒先などにぎゅっと固まってぶら下がります。これを「蜂球(ほうきゅう)」と呼びます。中心にはもちろん、女王蜂。彼女を守るように、たくさんの働き蜂たちが脚だけでぶら下がってボール状に固まります。見れば見るほど不思議でかわいい。
ただ、最近は人が集まる駅などに蜂球ができてしまい、ニホンミツバチの生態を知らない人たちがパニックになってしまったり、蜂が駆除されてしまうニュースを見かけることが増えました。
インパクトのある見た目ですので驚いてしまうと思いますが、攻撃性は低く人間を襲うようなことはほとんどありません。もし近くで分蜂群を見かけたら、決して刺激せずにそっとしておいてあげてください。心配しなくても、数時間から数日後には新しい巣へ移動するので、いつの間にかいなくなっているはず。
ミツバチのための巣箱を作ろう!

さて、養蜂をやっている人にとっては、この“分蜂シーズン”が何よりも大切。蜂たちが新しい巣を探しているタイミングで、自分たちが作った巣箱に入ってもらわなければいけないからです。「うちの巣箱、気に入ってくれますように」と準備に余念がありません。
ミツバチたちが「ここいいね!」と思ってくれる巣箱には、ちょっとしたコツがあるんです。

(1)以前、蜂が住んでいた巣箱
一度蜂が住んだ巣箱は「前にもニホンミツバチが住んでいたなら、快適に違いない」と思ってくれるようで、新しい群れも気に入ってくれやすいのです。そのため、一度使った巣箱は処分せず、木枠にへばりついた古い巣はあえて少し残しておいて「ここに前ニホンミツバチが住んでいたんだよー!」とアピールします。
(2)薬剤やコーティングなどが付いていない木で作られたもの
ニホンミツバチは、防腐剤や人工的な薬剤が大嫌い。少しでも臭いがついていたり気に入らなかったりすると、一度巣箱に入っていても数日で逃げ出してしまいます。そのため、初めて使う巣箱の場合は数ヶ月前に作っておき、雨ざらしにしたり池に漬け込んだり、できるだけ人工的な臭いがなくなるように下準備しておくと群れが入りやすいといわれています。
(3)巣箱の板に適度な厚みがあり、寒さや暑さに強く快適なもの
ミツバチも寒いのは苦手。巣箱の板が薄いと寒い冬を越すのも大変です。だからこそ、適度な厚みがあって、湿気もこもらない木材でつくるのがおすすめ。
さらに、果樹園の近くやお花の多い場所に置いてあげると「最高のロケーション!」と喜んでくれること間違いなし。日陰で暑すぎない場所も、引越し率アップの大事なポイントです。
分蜂の瞬間に出会えたらラッキー!蜂の捕獲に挑戦!

本当は自然に巣箱に入ってくれるのが理想ですが、なかなかそう上手くはいきません。そのため、この季節は蜂の群れを自分で捕まえることもあるのです。
分蜂が起こりやすいのは、晴れた日の正午から午後2時ごろ。巣から飛び出したハチたちが木の枝などに「蜂球(ほうきゅう)」というかたまりを作ったら、チャンス到来!
このときのハチたちはおとなしいので、そっと近づき、霧吹きで水をかけて羽を濡らします。こうすると飛びにくくなり、捕獲しやすくなるのです。蜂球の下に巣箱をセットし、ホウキなどでサッと蜂球を落とします。蜂球が丸ごと巣箱に入ったら、蓋をしてハチが落ち着くのを待ちます。
このとき一番大事なのが、蜂球の真ん中にいる女王蜂をちゃんと巣箱に入れること!女王が中にいれば、他のハチたちは「ここだ〜!」と続いてくれます。でももし女王を入れそこねると「やっぱりやめた」と、元の場所に戻って蜂球を再結成してしまいます。そうなると最初からやり直し。
毎回ハラハラドキドキ。でも、そんな苦労の末にやっと住んでくれたハチたちは、とびきり愛おしい存在になるのです。
どうしてニホンミツバチを守りたいの?

ニホンミツバチは、ただかわいいだけじゃありません。私たちの暮らしにとても大事な存在なのです。
実は彼らは、わたしたちが普段食べているトマトやイチゴなどの影の立役者。ミツバチが花の受粉を手助けしてくれるからこそ、様々な食物が実をつけることができます。もし彼らがいなくなったら……サラダもフルーツパフェも今の半分くらいのボリュームになってしまうかもしれません。
実際、ミツバチの数は年々減ってきています。たとえば農林水産省の報告(2022年)では、国内のニホンミツバチの数は過去10年で約30%も減少したといわれています。農薬、気候変動、住む場所の減少。原因はいろいろありますが、私たちがちょっと気をつけることで、彼らと共生することはできるんじゃないかと思っています。
ニホンミツバチの引越しシーズン。もしあなたが空を見上げて、大きな羽音の“生きる雲”に出会ったら。どうか「こわい!」と目をそらさずに、「あ、新しいおうちを探してるんだな」と、そっと優しく見守ってもらえたら嬉しいです。

三ツ矢青空たすき編集部より:
千春さんとミツバチたちの言葉なき心の交流を感じられるような素敵なエッセイでした。
以前、いとしまシェアハウスにうかがった際に、浩一さんが手のひらに蜂をのせて微笑んでいる姿に「すごいな~素敵だな」と思ったのを思い出しました。
お庭に巣箱のあるいとしまシェアハウスでは、ミツバチはペットのような感覚。
天敵のスズメバチが近づいてくると、「ねぇ助けて~」とばかりに近くに飛んできて知らせにくるんだそうです。なんだか可愛いなぁと思ってしまい、それから一気にミツバチが身近になりました。
千春さんのお話は、いつだって、私たちが自然の一部で自然の恩恵を受けながら生きていることを思い出させてくれます。
ぺんぎんさん
昔渋谷で見ました
5-6年前、渋谷の駐車場で見て、知らずにやはり怖かったです。写真撮りたかったけれど、怖くて撮れませんでした。
そのあとネットで調べて、「分蜂」、大切なことであると知りました。
それ以外にはニュースなどでしかみてませんが、そうか、蜂に関わる方はよく見られるんですね(当たり前ですね)いつかまた巡り会えたら、蜂さん邪魔しないよう観察してみますね。貴重何お話ありがとうございます。
三ツ矢青空たすきスタッフ
コメントお寄せいただき、ありがとうございます。
蜂球の意味を知ってしまうと、一転、健気さを感じて応援したくなりますね*
なるべく街中に蜂玉ができないようにと祈りつつも、もし見かけたら、私も周りの人々に「優しく見守って!」と伝えようと思います!