未来を創る人たち
人口50人未満の佐賀・松島で始めた自然と共生する塩づくりとグランピング

三ツ矢青空たすきが目指す「日本の美しい自然と文化を100年先へ」。このコーナーでは、自然や文化に関連するさまざまな分野の中から、三ツ矢青空たすきがその活動に共感した方々にインタビューを行います。今回は、人口約50人の佐賀県の離島「松島」で、自然と共生しながら、新たな産業を生み出す宗秀明さんにインタビューを行いました。
宗秀明さん
1994年、松島生まれ松島育ち。幼い頃から祖父や父の姿に憧れ、海士になることを夢見る。中学卒業後は島を離れ、佐賀市内の工業高校に進学。卒業後は唐津市内の鉄工所で3年間勤務したのち、松島へ戻り、父とともに海士として海に潜るようになる。現在は漁業に加え、塩づくりや養蜂、グランピング施設の運営など、自然と共生しながら島に漁業以外の新たな産業を生み出す取組を続けている。
海士を目指して松島に帰ってきた

ーーまずは自己紹介をお願いします。
松島生まれ、松島育ちで、今は海士をしながら、塩づくりや養蜂、そしてグランピング施設の運営などをしています。松島は人口45〜50人ほどで、スーパーやコンビニはもちろん、自動販売機や病院、警察署もありません。
ーー人口45〜50人の暮らしって想像もつきません。宗さんは一度島を出られたこともあるんですよね。
はい。高校進学とともに島を出て、高校の3年間、会社員としての3年間の計6年間を松島の外で過ごしました。祖父も父も海士でその姿にずっと憧れていたので、海士になるために21歳の時に松島に戻ってきたんです。子どもの頃、祖父や父がサザエやアワビをたくさん獲ってくる姿を見て、ただただ「かっこいいな」って。あまり大変そうとは思っていなかったですね。
ーー島を出てみて、改めて感じた松島の魅力ってありますか。
島を離れてみて改めて気づいたのは、島の人の温かさや自然の豊かさでした。松島って、島全体が一つの家族みたいな感じなので、帰ってきたら島のみんなが「おかえり」って迎えてくれて、家に帰ってきたっていう感じがするんです。あと、小さい頃から海や山で遊んでいたので、自然の中で遊ぶ楽しさとか、食べ物が新鮮で美味しいことも改めて感じました。

ーー海や山でどんなふうに遊んでいたんですか。
夏は毎日、防波堤から海に飛び込んでいました。他にも、友達と秘密基地を作ったり、島全体を使って鬼ごっこをしたり、子どもも大人も一緒にグラウンドでサッカーをしたり。父の漁について行って、イカ釣りをするのも好きでした。街での遊びも楽しいけど、僕にとっては自分たちで考える遊びの方が飽きなくて楽しいなって思います。
ーー自然の中で自分たちで考える遊びの方が面白かったんですね。そんな松島で環境問題が進んでいることを感じますか。
はい。例えば、今は「磯焼け」といって海藻が減って岩肌が剥き出しになっている現象が深刻です。僕が松島に帰ってきた頃はまだ海藻があったんですよ。今はサンゴが増えて、そこにカクレクマノミが住んでいて沖縄っぽくなっています。あと、アワビやサザエの収穫もここ5年でがくんと減ってしまいました。アワビは絶滅危惧種になっています。
新月と満月の日の海底湧水から作るこだわりの塩

ーー次に塩づくりについて教えてください。まず、塩づくりを始めたきっかけは何ですか。
漁業だけでは収入が足りなくなってきたことが大きなきっかけです。地球温暖化の影響で年々アワビやサザエの穫れる量が少なくなってきて、収入もどんどん減ってきていたので、漁業以外の収入源が必要だと感じていました。そんなときに知り合いから塩づくりを勧められて、島の魅力や自然の豊かさも伝えられるんじゃないかと思いました。
ーー塩づくりはゼロからの挑戦だったんですよね。
そうですね。最初は失敗ばかりで、塩を焦がしちゃったり。でも、挑戦するのが好きなので、改善しながらなんとか販売できるようになったという感じです。最初は、本当に塩を自分で作れるんだってびっくりしました。それを「美味しい」と言って食べてくれる人がいるのが嬉しくて、もっと上手に作ろうって思います。
ーーこだわっている点はありますか。
島の東側に綺麗な海域があって、そこの海底から湧き出る海底湧水を使っています。海底湧水を使うとにがりを抜かなくても旨みのある美味しい塩ができるんです。新月と満月の日にだけ採取していて、そのタイミングは月の引力の影響で一番湧き出る量が多いといわれているんです。成分的にも、マグネシウムやカリウムが多く含まれている質の良い塩なんですよ。

ーー海底湧水を採取するのは月に2回だけなんですね。
新月の日と満月の日だけっていうのが面白いかなって。同世代の仲間3人で一緒に作っているんですけど、どうやったら塩がサラサラになるかとか、鍋を何個使うと良いかとか、いろんなアイデアが出てきています。島を一緒に盛り上げていく仲間と協力して一つの仕事をするっていうのも、やりがいを感じて楽しいですね。
ーー楽しみながら作っているんですね。おすすめの塩の味わい方を教えてください。
僕は刺身や天ぷらに塩をつけて食べるのが好きなんですけど、優しい味で島の食材の魅力をさらに引き出してくれるように感じます。あと、新月の塩と満月の塩の味の違いを楽しみながら食べてほしいなと思います。塩おむすびにしたり、三ツ矢サイダーにひとつまみ入れたりすると違いがわかりやすいのでおすすめです。
島のみんなで作り上げたグランピング施設「ON THE CLIFF」

ーー次は、グランピング施設「ON THE CLIFF」についても教えてください。
崖の上にある1日1組限定の宿泊施設です。海、空、山の景色を見て自然を感じながら、バーベキューをして島の食材を楽しんでいただきます。宿泊者の方とできるだけたくさん会話して、松島の魅力を伝えるようにしています。
ーーどういう経緯で始まったんですか。
兄が料理人で、そのレストランに来てくれたお客さんに宿泊できる場所を提供したいと思ったことがきっかけです。父から「海を休ませることも大事だ」と教わっていたので、海のものを取りすぎない生き方をずっと考えていました。それで兄は料理人として島に戻ってきて、1日1組限定のイタリアンレストランを営んでいたんですけど、お客さんからは「もっとゆっくりしていきたい」という声が多かったんです。
ーーお兄さんのレストランに来たお客さんの声がきっかけだったんですね。
はい。数年前に「グランピング」という言葉をよく聞くようになったので、たまたまあるグランピング施設に泊まりに行ったんです。そのとき松島でもできそうだなって。知り合いにグランピング施設を作りたいと話したら「クラウドファンディングを利用してみたら」と勧められました。

ーーいろんなことに挑戦しますね。
最初のクラウドファンディングで200万円が集まったんですけど、後から200万円じゃ何もできないことがわかって。チェンソーや斧を使って手作業で土地を整地するところから始めたんですけど、どんどんお金がかかることがわかってきて。でも、クラウドファンディングをしちゃったから後にも引けず。
ーーそれはヒヤヒヤしますね。
ほんと、何にもわかってなかったからできましたね。結局、2,500万円くらいかかったんですけど、もう一度クラウドファンディングをしたり、補助金を利用したりしてなんとか形にしました。僕も島のみんなに「この島がもっと良くなるようにしたい」って伝えていって、みんなが協力してくれました。仲間と一緒に芝を敷き詰めたり、石を積んだりして楽しかったです。小さい頃から何かをするときは島のみんなで協力するっていうのが当たり前なんです。
ーー島のみなさんで作り上げたんですね。これからはどんなことに取り組んでいきたいですか。
泊まりに来た方に非日常的な時間や自然の豊かさをより楽しんでもらうために、山登りなどのアクティビティも増やしています。そして、この島のプロである漁師さんたちにインストラクターになってもらって、島を案内してもらっています。そうやって島の仕事を増やして、より暮らしやすくしていきたいです。
日本の美しい自然と文化を100年先へつなぐために

ーー最後に、宗さんの今後の展望について教えてください。
少子高齢化や環境問題が進む中で、自然を活かしながら新たな仕事を生み出すことで、みんなが暮らしやすい島をつくっていくことが目標です。最近は僕以外にも若い世代のUターンが増えてきていて、活気を感じています。上の世代の方も嬉しそうだし。
ーーそれは上の世代のみなさんにとっても頼もしい存在ですね。
やっぱり僕はこの島が大好きで、これからもずっと島で暮らしていきたいと思うので。そして、自分が子どもの頃に体験した遊びや自然との関わりを、次の世代にも引き継いでいきたいです。
松島では、子どもたちが漁師さんの運転するスクール船で隣の島の学校に通います。海を守るため、海士さんが海に潜るのは午前中の2時間だけという島独自のルールもあります。教会ではおばあさんたちが集まり祈りを捧げていました。島全体がまるでみんなの庭のようで、子どもも大人も自然や信念を共有して生きている一体感が感じられました。
三ツ矢青空たすきの体験では、宗さんの手づくりの新月・満月の塩を三ツ矢サイダーとともに味わうことができます。ぜひ、塩を通して松島に想いを馳せてみてください。
体験はこちら ※2025年のオンライン体験は終了しました。またの再開をお待ちください。
海底湧水でできた塩から学ぶ、海の豊かさと自然の大切さ
なお、宗さんとも交流のある、語り部の坂本強美さんと福岡県福岡市で海底湧水の塩を作る体験があります。
体験はこちら
海底から湧き出る水で塩づくり!今日だけの特別な塩づくりを体験しよう
取材・文/栗原和音
撮影/弥永浩次
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