第8回:「買う」から「育てる」へ!お米高騰時代の今こそ、お米作りを始めよう

※ 8話目

こんにちは。糸島で「食べもの・お金・エネルギー」をつくる“いとしまシェアハウス”の畠山千春です。

最近「お米が高くなってきた!」と感じた方、多いんじゃないでしょうか?天候による収穫量の減少、肥料や燃料費の値上がりの影響で、2024年の秋はその前の年より約48%も値上がりしているのだとか。(※1)毎日食べるご飯だからこそ、値上がりはちょっとドキッとしますよね。

でも実は、我が家はこの数年お米を一度も買っていません。なぜなら……お米を自分たちで育てているから。

東日本大震災を機に福岡県糸島市に移住した私たち。あのときも、買い占めでお米が手に入りにくくなったことがありました。私たちの主食である“お米”を、自分たちで作ることはできないだろうか?そんな気持ちがお米づくりをスタートさせたきっかけでした。お米を作り始めて10年以上。今では5〜8人のシェアハウス暮らしで、お米の自給率が100%になるまで育てられるようになりました。

※1:2024年10月農林水産省発表 新米の相対取引価格より

「お米が高くなってるけど、そのうち元に戻るんじゃない?」そんなふうに思っている方も多いかもしれません。でも実は今、お米の裏側では大きな変化が起きているのです。

最近ニュースでも話題になった“令和の百姓一揆”。農家さんたちがトラクターで東京を走ったあの行動は、「このままじゃ農業が続けられない!」という、現場からの叫びでした。

実際、2022年の米農家の平均時給はなんと約10円、年間所得は約1万円ほどという衝撃的なデータも出ています。(参考:農業協同組合新聞)これでは、若い人が農業をやろうと思えないのも無理はありませんよね。しかも農家の多くは高齢の方々。このままでは、お米を作る人がいなくなって、将来「毎日お米を食べる」ことが当たり前じゃなくなる日が来るかもしれません。

私たちは、そんな未来を変えたくて、自分たちでお米を育てています。これからはきっと、自分たちの食べ物を自分たちで作る時代だと思います。

もちろん大変なこともたくさんあります。でも、やってみると楽しいし、おいしいし、何より“自分で育てた”という感動があるのです。そして、今まで育ててくれた人たちへの感謝とリスペクトが生まれ、今まで以上にお米を美味しく感じるようになりました。

今回は、私たちが育てている「棚田のお米」がどうやって育つのか、現場のリアルをお届けします。「これからの食と暮らし」について、一緒に考えるきっかけになったら嬉しいです。

実は、お米づくりは秋から始まっている!

お米づくりって、実は前の年の秋、収穫が終わった時点からもう始まっているのです。大事なのは、次の年の「種」となるお米の選別。たくさんの稲の中から、よく実った稲を選んで、そのお米を“食べずに”大事に保存しておくのです。次の年のお米の収穫量や実の付き方を左右する、重要な作業です。

春、いよいよ種まきの季節になると、まずは保存していたお米を水に入れて選別します。水に浮かんでくる実は中身がスカスカなことが多いので取りのぞき、ずっしり沈んだ元気な種だけを使います。

そのあと、しばらく水に浸けておいたお米を「苗床(なえどこ)」にまいていきます。苗床とは、田んぼの中に作る“お米の赤ちゃん用ベッド”のような場所。ここで種から芽を出し、苗になるまで大切に育てます。

そしてこの苗床づくりが……とにかく大変!田んぼの土を細長く盛り上げて、畝(うね)をつくり、そこに種をまいていきます。やがて籾殻の中からピョコンと芽が出てくるのですが、いつも食べてるあのお米からこんなふうに発芽してくるなんて、なんだか不思議で、ちょっと愛おしくなります。

そして、苗がある程度まで育ったら、苗を広い間隔で植え直す「田植え」をしていきます。

「苗床でそのまま育てればいいのでは?」と思うかもしれませんが、苗床は赤ちゃんを育てるベビーベッドのような場所。たくさんの苗を密集させているため、そのまま育てるには手狭で、栄養も光も足りなくなってしまいます。

そのため、苗が十分に育ったあとは、のびのび成長できる広い環境が必要になります。田植えをして、栄養・水・光がしっかり届くように適切な間隔で植え変えることで、秋に立派なお米が実るのです。

裸足で入る田んぼは、自然とつながる入り口!

しっかり育った苗たちは、いよいよ本番の田んぼへお引っ越し!これがいわゆる「田植え」です。

最初はぬるっとした泥に少し驚くけれど、慣れるとこれがなんとも気持ちいい!足元を小さな生きものがスイスイ動いていたり、土の中から空気がぷちぷち抜けてきたり——五感がフル稼働する瞬間です。

私たちの棚田では、農薬も肥料も使わない方法でお米を育てています。そのため、苗と苗の間隔は通常のお米づくりの2倍ほどの広さ。そうすることで風が通り、光もしっかり届くため、病気や害虫が発生しにくい環境になっていきます。また、肥料を入れなくても、土の栄養だけでお米が育ちます。

植えられる苗の数が少ないのでたくさん収穫はできないけれど、その土地が持つエネルギーだけで育ったお米はパワフルで、味も香りも格別!しかも、肥料の値上がりの影響も受けません。自然のサイクルの中で、たくましく育ってくれるのです。

さて、今年はどんなお米が育つでしょうか。この続きは、また秋にご報告しますね!

自分でお米を作ってみよう!

さて、突然ですがここで質問です。日本で食べられているお米のうち、約33%が山あいの田んぼで作られていること、知っていましたか?(※2)けれど今、その田んぼの多くが失われつつあります。特に山の斜面に広がる棚田は、田んぼのひとつひとつが小さくて、機械が入りづらく、維持するのがとても大変。さらに農家さんの高齢化や後継者不足が進み「続けたくても続けられない」という声が増えています。

このままでは、美しい棚田が消えていくだけでなく、“お米のある食卓”も特別なものになってしまう日が来るかもしれません。

※2:2022年5月農林水産省発表 令和3年度 食料・農業・農村白書 第2節 地域の特性を活かした複合経営等の多様な農業経営等の推進より

そんな未来を変える第一歩として、お米づくりに興味のある方が自分の好きなスタイルでお米づくりに参加できる仕組みをいくつか用意してみました。がっつり関わりたい人も、ちょっと体験してみたい人も大歓迎。美しい棚田を守るためには、地域の人だけでなく都市部の人たちの力が必要です。都市と地域で交流しながら、この風景を守っていけたらと思っています。

(1)棚田のクラフトサケ計画
自分で育てたお米が、世界にひとつだけのオリジナル日本酒になります!お酒好きの方はもちろん、お子様に自然体験をさせたいファミリーの方やご友人との参加も大歓迎です。
https://itsmsh.com/blog/2025/04/13/sake-2/

(2)棚田のオーナー制度
主に団体の方向け。SDGsやCSRの取り組みの一環として、里山保全活動ができます。また、福利厚生として社員同士の交流に活用していただけます。
こちらよりお問い合わせください→ https://itsmsh.com/contact/

(3)田植え・稲刈り体験
「お米づくりに、ちょっとだけ関わってみたい」そんな方には、日帰り体験もおすすめ。実際に田んぼに入ると、きっと新しい発見があると思います!詳しい日程はウェブサイトやSNSをご覧ください。

食卓の未来は、きっともっと楽しくなる!

「将来、お米が食べられなくなるかも…」そんな話を聞くと、少し暗い気持ちになるかもしれません。でも、“今の自分の一歩”が未来の食卓を変えていく。そんなふうに考えるとちょっと前向きになれませんか?

あなたが植えた苗が黄金色の稲に育ち、そのお米を家族や仲間と一緒に食べる。出来上がったお酒を大切な誰かにプレゼントする。それは、最高のごちそうになるのではないでしょうか。

「誰かが作ってくれたものを“買う”」だけではなく「自分で育てて“味わう”」体験には特別な喜びがありますよ!今年もたくさんの方と田んぼで出会えるのを、楽しみにしています。


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いとしまシェアハウス /
畠山千春さん・志田 浩一さん
いとしまシェアハウスは、「食べ物・お金・エネルギーを自分たちでつくる」をコンセプトにした、自然とつながるシェアハウスです。棚田に囲まれた集落の中で、田んぼや畑・猟を行い、築80年の古民家を改修しながら、様々な個性を持つ男女が共に暮らしています。
ここでは、体験したこと、つくり出したものをたくさんの人たちと“シェア”する暮らしの実験を行っています。

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