未来を創る人たち
多感な時期に地域や人に愛着を持つ体験を!「地域でくらす」を伝える古民家再生

三ツ矢青空たすきが目指す「日本の美しい自然と文化を100年先へ」。このコーナーでは、自然や文化に関連するさまざまな分野の中から、三ツ矢青空たすきがその活動に共感した方々にインタビューを行います。今回は、糸島市で古民家を活用した学生寮やカフェ、ゲストハウスなどを運営する大堂良太さんにインタビューを行いました。
大堂良太さん
1982年熊本県生まれ。九州大学を卒業後、丸紅株式会社に9年勤務。2017年に糸島市へ移住し、独立。古民家を活用した地域交流型の学生寮「熱風寮」を全7棟を運営。その他にも、古民家ゲストハウス 「糸結」、「いとしま庵」、学生と地域の憩いのカフェ&バー「mulberry house」、シェアオフィス「糸島よかとこラボ」、コミュニティスペース「IQOL」、棚オーナー制古書店「糸島の顔がみえる本屋さん」、新スタイル駄菓子屋「秘密じゃない基地トムソー屋」、古民家付きアウトドア施設「燎(KAGARIBI)」などを運営。
2024年から糸島市インターンシップ事業「いとしまキャリアクエスト」を受託。パートナーと娘2人の4人暮らし。
原体験となった地域にひらかれた学生寮での暮らし

ーーまず、大堂さんの学生時代について教えてください。
熊本県出身で、4人姉弟(きょうだい)の2番目として育ちました。九州大学への進学を機に福岡に出るんですけど、経済的にゆとりがあるわけじゃなかったので家賃が安い九大が管理する寮に入るという選択肢しかありませんでした。当時家賃は月額5,000円程度でした。最初の4年間は田島寮と松原寮という学生寮で過ごしました。
ーー学生寮での生活はどのようなものでしたか。
一言で言うと、自治寮でめちゃくちゃ自由度が高くて楽しかったですね。毎年、寮生による投票で寮長が決まって、寮祭をはじめとする様々な行事を自分たちで開催していました。寮祭では、バスケットボール大会、寮全体を使ったかくれんぼ大会、弁論大会などがあって、200人くらいの寮生がブロック(A~Cの各棟)にわかれて競い合うんですよ。
ーー大人のかくれんぼ大会ですか。楽しそうですね。
そうなんです。田島寮と松原寮の間に半年くらい一人暮らしもしたんですけど、暇だし面白くなくて。大学院ではまた九大仏青寮という民間の寮に入りました。この寮は地域貢献活動をすることが入寮の条件になっていて、学生が地域の子どもたち向けに寺子屋を開いたり、親御さんからお子さんを預かってサマーキャンプをしたり、様々な活動を経験しました。
ーー地域にひらかれた寮だったんですね。そこでの暮らしはいかがでしたか。
新鮮で楽しかったですね。地域の人と具体的な関わりが生まれたことで「ありがとう」って感謝の言葉をもらう機会も増えました。他者貢献感が芽生える感じがして「地域で暮らすってこういうことか」って思いました。この経験が今の活動につながっています。
古民家のゆとりある空間が若者の挑戦を促す

ーー「糸島で古民家に詳しい人」といえば大堂さんというイメージがあります。古民家の活用はいつから始めたんですか?
もともとは九州大学の後輩に寮での暮らしを通じた学びを提供したくて、物件探しを始めたんです。そしたら、古民家というジャンルの物件に出会って一般的な戸建て住宅を考えていたんですが、30件ほど見て回ってもなかなかいい物件に出会えなかったり、逆にお断りされたりしている中、31軒目に、当時築148年(明治4年建設)の古民家に出会いました。これが1棟目の寮です。当時、空き家問題は全国的な課題だったので、この事例が他の地域の参考にもなればなおさらやる意義があるなと。その頃から「学生寮」と「古民家活用」がテーマになりました。
ーー今は、古民家にどのような魅力を感じていますか。
やっぱりスペースにゆとりがあるところが良いですよね。今の不動産は、土地に対していかに効率よくたくさんの入居者を入れるかっていう発想なので、学生マンションもスペースにゆとりがない。そうすると思考にも余白がなくなって、自由で柔軟な発想も生まれづらいんじゃないかと思います。
ーー確かに広さは魅力的ですね。現在は、学生寮以外にも古民家を活用されているそうですが、具体的にはどのような用途ですか。
はい、大きく分けるとカフェ、ゲストハウス、コミュニティスペースの3つですね。九州大学の近くで、観光客や地域の方がふらっと立ち寄れて、学生とも自然に交流できるような居場所づくりを目指しています。
ーーどれも九州大学の学生との交流をねらっているんですね。場所や用途はどのように決めているんですか。
まず、九州大学(伊都キャンパス)から半径5キロ以内の物件は「熱風寮」という名前の学生寮として活用しています。それ以外の物件は、例えば交通の便が良かったり海が近かったりと観光的な要素がある場所はゲストハウスにしています。伊都キャンパスに近く立地は良いけれど間取りが住まい向きではない場合は、カフェやコミュニティスペースとして活用しています。

ーー寮生の活躍についても教えてください。
まず、「夢が見つかる学校もろきち」という寺子屋を、自身が住む熱風寮を拠点に5年間にわたって毎週欠かさず続けている寮生がいます。彼は寮に入った直後、「地域の子ども向けに寺子屋をやりたい」と話してくれて。当初5〜6人だった生徒が、今では18人ほどに増えました。午前中は宿題を見て、午後は凧作りやはんだ付けの電子ピアノ作りなど、子どもたちの好奇心を刺激する活動をしています。他にも、本屋を起業した元寮生や、小中学生向けのプログラミング教室を立ち上げた元寮生もいます。
ーー学生から起業家が生まれることは、もともとねらっていたんですか。
はい、「起業家シェアハウス」というコンセプトの寮があって、そこには細かい仕掛けをしています。たとえば、月1回の外部の知り合いも参加可能な一品持ち寄り会で交流を深めたり、大きなホワイトボードやプロジェクターを置いてディスカッションやプレゼンをしやすくしたり。さらにゲストルームを用意して、外部の人が気軽に泊まったり遊びに来たりできるようにしています。
第3フェーズの幕開けとなった地域参加型の「熱風祭」

ーー2023年から始まった「熱風祭」について詳しく教えてください。
熱風祭は、熱風寮生が「地域参加型のお祭りをやりたい」と言って始まったお祭りです。このとき、熱風寮を始めて7年目でついに第3フェーズに入ったなと思いました。
ーー第3フェーズとは何を指しているんですか。
私は地域活動を3つのフェーズに分けて考えていて、第1フェーズは学生が地域の既存の行事に参加する段階。例えば、地域の環境美化活動や田んぼの用水路の草刈りなどです。寮生が地域に出て行くけど、まだ受け身の段階ですね。第2フェーズは、寮生が地域の課題を見つけて解決する段階。例えば、地域の方との会話の中で「子どもの塾が遠くて通うのが大変」という課題に気づいた寮生が寺子屋を始めるとか。そして、第3フェーズは、地域に向けて「やりたいこと」を自ら企画・実行する段階です。
ーー第3フェーズは、課題があるからやるのではなく、自らやりたいことをやるということがポイントなんですね。熱風祭に対して寮生はどんな想いを持っていたんですか。
一つは、熱風寮のことを地域の方にもっと知ってもらい、新しいつながりや可能性を広げたいという想いです。例えば、空き家を持っている方と出会って、「学生に使ってほしい」という話になるかもしれない。もう一つは、1〜2年生の寮生に熱風寮らしさを体験してほしいという想いがありました。

ーー地域の方々の反応はいかがでしたか。
1,300名以上の方に足を運んでいただき、大きな反響を感じました。具体的には、「若い人だけでやっているお祭りが新鮮で楽しい 」、「普段は自転車で通りすぎる姿しか見ない学生と直接話せてうれしい」、「関わるだけで若々しさをもらえた」といった声をいただきました。
ーー2024年は早くも2回目を迎えましたが、手応えはどうでしたか。
寮対抗の出店バトルを新たに導入したことで、さらに寮の一体感が強まりました。寮ごとのグループLINEでも例年以上にコミュニケーションが活発になって、熱風祭後も「カブトムシを取りに行こう」とか「誕生日パーティーをやろう」とか、寮生同士で集まるイベントが増えましたね。
多感な時期にその地域や人に愛着を持つ経験が100年先の未来をつくる

ーー最後に、100年先に向けてこれから取り組んでいきたいことは何ですか。
若者が大学時代などに育った地域に戻ってきて活躍し、それが地域の事業継承問題の解決の糸口になるような仕掛けをしていきたいと思っています。地方こそ若者が求められていて、生き生きとやりがいをもって活躍できる場所だと思うんです。
ーー大堂さん自身が出身地の熊本ではなく、大学時代を過ごした福岡に戻り、空き家問題の解決や学生支援に取り組んでいますよね。
はい。地方出身者が地元に戻る「Uターン」、都市部出身者が地方に移住する「Iターン」という言葉がありますよね。私はさらに、地方出身者が大学時代に過ごした地域へ、社会人経験を経て戻ることを「Pターン」と呼んでいます。
ーー「Pターン」という新たな言葉を作ったんですね。その結果として事業承継問題を解決したいと思うようになった背景には何があるのでしょうか。
100年続く企業や伝統的な事業が、担い手不足で廃業を余儀なくされる例が増えています。それを解決するためには、20歳前後という多感な時期にその地域や人に愛着を持つ体験が大切だと思うんです。一度はその地域を離れても、あるとき「今後の人生で何をしたいか」って考えたときに「あの人たちのために何かしたい」と思うんじゃないかって。
ーーそのために具体的に取り組んでいることはありますか。
現在、糸島市の企業と自身のキャリアを探究する学生をマッチングする実践型の中長期有償インターンシップ事業「いとしまキャリアクエスト」に取り組んでいます。九州大学をはじめとする学生が地域企業で働くことで、そこで働く人や糸島を好きになってくれたら嬉しいですね。そして、そんな若者が増えることが100年先の未来をつくると信じています。
大堂さんの真っ直ぐできらきらした目がとても印象的でした。こんな視線でやりたいことを応援してくれる大人がそばにいたら、どれほど心強いだろうと思います。家族を大切にしながら、やりたいことを全力で楽しむ大堂さんの姿は、自己啓発本以上に若者たちの心に響くはずです。糸島に戻ってきた若者たちがつくる熱い未来がとても楽しみです。
取材・文/栗原和音
撮影/弥永浩次

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