ちはるの糸島ナチュラルライフ
第12回:太陽と風で育てる糸島のお米づくり

こんにちは!糸島で「食べもの・お金・エネルギー」をつくる“いとしまシェアハウス”の畠山千春です。
秋風が心地よい今日この頃、稲刈りの季節がやってきました。黄金色に輝く稲穂を見ると、毎年ワクワクしてしまいます。私たちの家はお米の自給率100%。しかも、農薬や肥料を使わず、海の見える棚田で昔ながらのお米を育てています。12年前は小さな田んぼ1枚から始めたお米づくりも、今や田んぼの数は約20枚、収穫量は全部で2トンほどまでに大きくなりました。
10年以上お米作りをしていますが、「今年は何のトラブルもなくお米が作れたね!」なんて年はほぼありません。特にこの数年は気候変動の影響が大きくて、田んぼによっては収穫量が半分になるなんてことも。毎年全力で走り回って、なんとかかんとかやりきっています。
棚田は美しいけれど、手ごわい相手

棚田は見た目こそ美しいですが、米づくりをする人にとってはなかなかハードルの高い場所です。お米づくりをするまでは「棚田って美しいなあ」とその風景を素直に楽しめていましたが、今では小さな田んぼが連なる棚田を見ると「ここの管理、誰がやっているんだろう」とゾッとしてしまうほど。笑
それだけ、平地の広い田んぼと棚田では大きな違いがあるのです。まず、平地の田んぼでは大きな機械を使って効率よく作業を進めることができ、収穫量も安定して多く、コストも抑えられます。一方で、山の斜面に階段のように広がる棚田では、そうはいきません。田んぼ一枚の面積が小さく、形も不揃い。段差があるため大型機械は入れず、どうしても人の手に頼る作業が多くなります。そのため、棚田は平地の田んぼに比べて“労力2倍で収穫量は半分”とまでいわれています。

そもそも、棚田のお米はビジネスとしてお米を売るために作られたのではなく、自分たちが食べるお米を自分たちで育てるためにつくられたものでした。ところが、機械化が進み、お米の大量生産が可能になった現代では「お米は作るより買った方が安い」ものになってしまいました。現在、お米の値上がりが話題になっていますが、それでもお米を作る身としては「まだまだ買った方が安い」と感じています。燃料や肥料、農薬の価格も高騰しているなか、わざわざ自分の手間と時間をかけてお米を作ろう!とする人は多くはないのではないでしょうか。
手間と時間がかかる棚田では、お米作りの後継者問題に直面しています。このまま“お米を作る”という営みがなくなってしまえば、日本の伝統風景といわれた棚田もどんどん減っていってしまうでしょう。2021年4月の毎日新聞の記事によると、「日本の棚田百選」と呼ばれる認定地区への毎日新聞の調査で、選ばれた134か所の棚田のうち約4割が「面積が減っている」「管理されなくなっている」ことがわかったそうです。

ですが、棚田の価値は数字だけでは測れません。まず、山の斜面につくられた田んぼは土砂崩れを防ぎ、洪水の勢いを和らげる自然のダムとしても機能します。さらに、棚田はカエルやトンボ、鳥や昆虫など、多様な生き物が暮らし、里山の生態系を守る役割も担っているのです。そして何より、冷たい山の湧き水で育った棚田のお米は、太陽と風をたっぷり浴びて格別においしく感じられます。
我が家のお米づくりは「天日干し」

そんな棚田で育てたお米。それを乾燥させる方法にも現代と昔では大きな違いがあります。今、一般的なのは熱風でサッと水分を飛ばす機械乾燥です。1〜2日で仕上がるので効率は抜群ですが、機械そのものに何百万円もかかり、メンテナンス費や電気・燃料代がかかるところがデメリットです。
一方で、私たちが行う天日干しは、竹で組んだ「はざ」に稲を掛けて、太陽と風の力でじっくり乾かす方法。晴れが続けば1週間ほど、雨が多ければ2週間以上乾燥させる必要があります。お金はほとんどかかりませんが、竹を運び、はざを組み、稲をかけ、倒れたら直す…と人手と時間がめちゃくちゃ必要です。けれど、天日干しをしている間に茎からお米へゆっくり養分が移るため甘みや香りが増すという風説もあり、天日干ししたお米は「美味しくなる」といわれています。
はざづくりは大冒険

お米をかける竹の「はざ」を作るには、膨大な竹が必要です。うちの田んぼでは約1000本以上の竹を使ってお米を干していきます。(改めて数えたときは数の多さに驚きました!)この竹を棚田オーナーさんや学生プロジェクトの仲間たちと協力して、数年かけて山から切り出してきました。自然素材である竹は年々劣化していくので、毎年3分の1程度は入れ替える必要があります。こう考えるとメンテナンスもなかなかの大仕事ですが、仲間とワイワイやりながら進めると、それもまた楽しいものです。
昔は日本中で天日干しが行われていたため、竹刈りもごく普通の作業でした。さらに竹はカゴやザルなどの日用品、建材や楽器にも使われていたので、竹は身近な材料だったのです。しかし、プラスチックや輸入品の普及で需要は減り、竹林は放置され、荒廃が進んでいます。増えすぎた竹は日光を遮り、生態系を壊し、土砂崩れの原因にもつながるといわれています。天日干しのお米づくりは、竹林の手入れという里山保全の役割も持っているのです。
田んぼにナスカの地上絵を作る!

山の合間にあるうちの集落は風が強く、はざの立て方にも工夫が必要です。何の知識もなかった初年度は、突風で何度も倒れてしまい大変な思いをしました。とある年は、強風で干したお米が全部倒れてしまった!なんていうことも。試行錯誤を重ね、今では田んぼの形や風向きに合わせたユニークなお米の干し方を編み出しました。
ドローンで空撮した我が家の田んぼ、見てください!お米がかけられた竹のはざが三角だったり田の字型だったりさまざまな形に組まれていて、上空から見るとまるでナスカの地上絵のように見えませんか?さらに、これを自分たちで作った!と思うととても誇らしく感じるのです。稲刈りの季節にしか見られないこの風景が見られるだけで、お米育ててよかった!と心から思います。

お米の乾燥は、ご飯の品質を左右するとても大事な作業。日本人の主食であるお米は、次の年の収穫まで1年間美味しい状態で保存する必要がありますが、乾燥が不十分だと梅雨時期にかびてしまい、食べられなくなってしまう可能性があるためです。
稲が乾くのは晴天なら約1〜2週間、1日雨が降るとその水分を乾燥させるのに約2日かかります。つまり、乾燥期間中に3〜4日雨が降ると約1週間ほど乾燥期間が延びることになります。風で倒れれば、もっと時間がかかります。
収穫時期の作業は天候に左右されることが多いため、きちんとスケジュールを組めないことがほとんど。1週間お米の収穫をし続けてへとへとになるときもあれば、雨が降って強制的にお休みになってヤキモキするときもあります。1年間頑張って育ててきたお米だからこそ、毎年、収穫直前のこの時期は天気予報と睨めっこ。どうかどうか大きい台風が来ませんようにと祈るばかりです!
終わりに

棚田での米づくりは平地の田んぼより圧倒的に大変です。現代の価値観でいう“効率や利益”だけを考えれば、もしかしたら棚田は消えてしまう運命にあるのかもしれません。けれど、そこには数字だけでは測れない豊かさと価値があると信じています。先祖代々、人の営みと自然が生み出してきたこの風景を、次の世代に受け継いでいきたい。その気持ちを胸に、今年も稲刈り頑張りたいと思います。早く美味しい新米食べたいなあ!
三ツ矢青空たすき編集部より:
ちはるさんのエッセイを読みながら、昔から日本に伝えられてきた言葉を思い出します。
“一粒のお米には七人の神様がいる”。水、土、風、虫、太陽、雲、作り手。
どれがかけても食卓にお米が並ぶことはない。
今年も新米が入ったら、感謝の気持ちとともに炊き立ての甘くみずみずしいお米をシンプルにお味噌汁だけで味わいたいなぁと思いました。
棚田の管理、はざかけ、これまでの記事でも何度かその大変さが伝えられてきましたが、ちはるさんはいつも「大変だけど仲間とワイワイやるとそれも楽しい」とおっしゃいます。
昔ながらの農作業はとてつもない労力がかかるから人の結が必要で、生態系が守られるから豊かな水や美しい四季が守られてきたのでしょうね。
いろんな価値観、豊かさがあると思います。何が正しくて何が間違っているということも決めることはできないです。でもこうして時々立ち止まって、私たちが祖先や自然から受け取ってきた恵みを感じる時間は誰にも必要な時間ではないでしょうか。


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