第10回:「思いどおりにならないことの価値」

思いどおりにならないとき、私たちは、もどかしさを感じたり、イライラする気持ちにさせられる。
けれど、自然相手の仕事は、思いどおりにならないことが日常である。

私はフリースクールの講師として、小中学生に「しぜん」という名の野外フィールドワーク中心の授業を実施している。
「タンポポコーヒーづくり」「水生昆虫」「キノコさがし」など、毎回さまざまなテーマで野外を歩き回るのだが、やっぱりテーマ通りに展開しないことがある。

例えば「テントウムシ」をテーマにすると、思いどおりに進めば、さまざまな種類のテントウムシが見つかったり、さまざまな成長段階のテントウムシが見つかったりする。
だが、いくら歩いて探しても、その日に限ってなかなか見つからないこともある。

探そうと思うと見つからない

自然は毎日移り変わるものである。

まず、季節によって自然は変化する。
昨日までたくさんいたカニが、「カニ釣り」を予定していた日に急に寒くなってちっとも見つけられないということもあれば、先週までおいしく食べていたシイの実が、今日は虫食いしかないということもある。

それから、天候や時間によっても自然は変化する。
昨日はたくさんいたカタツムリが、晴天に恵まれてまったくいなくなっていたり、朝にたくさん咲いていた花が、午後にはみんなしぼんでしまっていたりする。

あるいは、草刈りが行われた直後など、人の活動によっても生きものの状況は大きく変化する。
自然との出会いは、本当に予想がつかない。

自然は予想がつかない

そもそも生きものとは、本質的に思いどおりにならないものである。

たとえば、ダンゴムシ。
ダンゴムシに迷路をやらせると、右に曲がった後は左に曲がり、左に曲がった後は右に曲がり、またその後は左に曲がる……というように、壁にぶつかるたびに、曲がる方向が入れ替わる交替性転向反応という習性がある。
しかし、これが手作りの迷路で実験すると、作りの粗さのせいなのか何なのか、理論どおりにはいかない。壁にぶつからずに進んだり、壁によじ登ってしまったり、最初からやる気がない感じだったりする。

あるいはカタツムリだって、ちょっとふれただけで殻の奥まで引っ込んでしまったきり、いくら水を与えて暗いところに置いておいても出てこない、ということもある。

出てこないカタツムリ

もちろん、あらかじめ状況を確認しておくことで、ある程度までは自然のふるまいは想定できる。
しかし、自然が想定どおりだったとしても、こどもの反応もまた、思いどおりにはいかない。
思わぬところで盛り上がったり、期待したことにまったく反応がなかったりもする。

同じ物を見ても、感覚は人によって大きく異なる。
霧の立ち込める森は、私にとっては雰囲気抜群でワクワクするのだが、怖がってしまうこどももいる。

食べられるものの好みもまた、人によって反応が分かれやすい。
ムクノキの実はレーズンや干し柿にも似た甘い実なのだが、いざ食べてみると、嫌だというこどももいれば、病みつきになって食べたがるこどももいる。

あるいは、ダンゴムシが丸まることなんて当たり前だと思っていたら、ダンゴムシが丸まるというだけで大いに盛り上がることもあったりする。

ムクノキの実

思いどおりにならないことは、決して悪いことではない。
たとえばテントウムシという1つの生きものに意識を向けて歩き回ると、草花や小さな虫に目が行くようになる。結果として、当初は予想していなかった発見がある。
むしろ想定外の展開が生まれ、想像以上の楽しい時間になることもある。

思いどおりにならない展開は、こどもと自然の出会いの醍醐味である。

自然が毎日移り変わり、状況が変化するのと同じように、こどもだって一人ひとり違うし、同じ人でもちょっとずつ変化がある。体調も心境も、日々刻々と変わる。
思いどおりにならないからこそ、その時その場所の自然が見えてくるし、その時その瞬間のこどもの姿が見えてくる。

シャクトリムシにふれる

生命の本質は、思いどおりにならないことだと私は思っている。
自然との出会いは生命とのふれあいなのだから、思いどおりにならなさは不可欠のものだろう。

自然とのふれあいは、生命と生命のコミュニケーションの連続である。
こども一人ひとりも、自然とのふれあいのなかで、思いどおりにならないことを経験する。

トカゲをつかまえたいと思ったのに、ちっとも出てきてくれず、くやしそうな人。
見つけたカニをつかまえようとしたら、はさまれて痛い思いをする人。
そんな思いどおりにならない経験を積み重ねることで、生命という存在を肌で感じる。

実際に自然にふれて体験しないと、思いどおりにいかないことにも気づけない。

ナナフシをつかまえた

こどもは、思いもよらないことをしてくれる。
その行動を通して、やってみることの大切さを教えてくれている。
自然には、そのためのきっかけがたくさんある。

だから、もしも思いどおりにならないことがあるとしても、そのことで自分を責める必要はないのかもしれない。
それが自然や心を大切にしている結果なのであれば、とても素敵なことだからだ。


語り部一覧

ネイチャーライター /
野島智司さん
ネイチャーライター、作家、かたつむり見習い。
糸島市を拠点に、身近な自然をテーマにした個人プロジェクト「マイマイ計画」のほか、自然と子どもによりそう場を開く「小さな脱線研究所」を主宰。糸島のフリースクール「NPO法人産の森学舎」「おとなとこどもの学校テトコト」で授業を担当するほか、筑紫女学園大学非常勤講師も務める。著書に「カタツムリの謎」(誠文堂新光社)などがある。5月に新刊「カタツムリの世界の描き方」(三才ブックス)を出版。

この記事は
いかがでしたか?

-
-
-

青空たすきに感想を送ろう!

※コメントが反映されるまでに2〜3日ほどかかります。また、本サイトの利用規約に定める第15条(禁止行為)に該当するコメントにつきましては掲載を差し控えさせていただくことがございます。