皮剥き間伐で森を再生。「NPO法人いとなみ」が次世代へつなぐもの #2

※ 全2話の 2話目

9.11がきっかけで、社会について考えるように

間伐体験のワークショップでは、森の仕組みや現状をイラストなどでわかりやすく説明する

糸島に移住してから、日韓交流と森林再生の2つの取り組みに力を注いできた藤井さん。では、森林再生の活動のきっかけは何だったのでしょう。

「高校生のころ、自分と他人の価値観は違うと感じたんです。それなら、自分はニッチな世界を生きていこう。好きなことをして、お金をかけずに生きようと思って、映画を作るために上京しました。でもその後9.11のアメリカ同時多発テロが起きて、社会全体がおかしくなっていると感じたんです。“俺は俺”という個人主義ではなく、もうちょっと社会のために何かしないとって思ったんです」

映画の撮影を通して、環境問題を考えるきっかけがあったこともあり、森の問題を考えはじめるように。まずは植林活動を始めたものの、「多様性のある森を目指すなら、植林じゃないって気がついたんです」。

藤井さんが調べたデータによると、日本は国土のおよそ7割が森林。これは世界的に見ても貴重な数字です。しかし、木材の国内自給率は30%台。多くを輸入に頼っています。

「戦後、高度経済成長により円高となり、国内の森を切り出すコストよりも、輸入材を使った方が安くすむように。でも輸入先のインドネシアでは、1970年から10年間で、日本国土と同じだけの天然林が消失。実は日本人が輸入材に頼ることで、海外の原生林が消失してしまったんです」

スギが生い茂る森。一歩入ると、気温が一段下がったよう。思わず深呼吸したくなるような、凛とした空気が漂う

さらに日本国内にも問題が。「戦後、木材自給率が高まることを予測して、天然林だった森を伐採。成長が早く、建築用途にも適した杉やヒノキを植えていったのですが、輸入材が中心となったことで森の手入れが行き届かなくなってしまいました」。

杉やヒノキといった背が高い樹木が生い茂ることで、日光が遮られ、背が低いほかの植物は荒廃。森に栄養が行き渡らなくなり、森から海へ、長い年月をかけて届けられる雨水からはミネラルが不足し、海の環境にも悪影響がでてしまいます。

「間伐によって過剰にあった木を間引くことで、枝や根を伸ばすスペースが出来、残った木が太ることができます。そして地面に光がさすことで、さまざまな植物が育ち、徐々に虫や菌類などさまざまな生き物たちが姿を表すようになります。時間をかけて、森がよみがえっていくのです」。

切り出すよりもメリットの多い「皮剥き間伐」

中央の木が「皮剥き間伐」によって立ち枯れしたもの。必要なときに切り出すので、最長10年はこのままの状態。「木材を保管する倉庫を借りる必要はない。森が天然の貯蔵庫になっているんです」

とはいえ、間伐には林業のプロが必要で、道具や重機も欠かせません。コストの割には、間伐材の価格は非常に低いという問題があります。そこで藤井さんが注目したのが、「皮剥き間伐」。小さなのこぎりと竹べらを使い、文字通り、樹木の皮を剥いで行う間伐方法です。

「木というのは、枝が伸びて、根っこが伸びて、根っこから養分を吸収して幹が太ります。でも樹皮をはいでしまうと、水分や養分を吸い上げることができなくなり、枝が枯れ落ち、樹木は立ち枯れていくんです」

「昔は、孫が家を立てるときのために木を育てるという風習があった。確かに植え過ぎてしまったけど…。でも、そういう思いで育てる、木への愛着がありました。その思いが途切れてしまったと思う」と藤井さん

立ち枯れした樹木は、そのまま置いておくとどんどんと水分が抜けて軽くなっていきます。2、3年してから切り出すと、丸太1本が小学生3人ほどで運べる軽さに。従来の間伐作業で必要だった重機を使うことなく、軽トラ1台さえあれば加工場へ運ぶことができます。

「自分で皮を剥くとその木に愛着が湧く。だから、この木を使ってみたいって思う。さらに日本の木材自給率も高まって、海外の原生林も守ることができます。今、日本の森が抱える問題って、人間が起こしてしまったもの。僕たちがやっているのは、森の再生ではなくて、人間の再生……つまり”僕たち自身”の再生なんじゃないかなって考えているんです」。

まずは森に来てほしい

ピンクのリボンが付いた木は間伐せずに残す木。ワークショップでは、どの木を残すかもみんなで考える

藤井さんは、この皮剥き間伐のワークショップを定期的に開催。地元の小学生やフリースクールの生徒、糸島市内外のファミリーなど、多くの人にそのノウハウを伝えています。皮剥き間伐に慣れてない子どもたちが、ひとりで1本、樹皮を剥ぐのにかかる時間は2〜3時間ほど。機材を使った間伐に比べると、効率は悪いですが、「これまで林業に携わっていなかった人たちが、森の現状を知ることで新しいものが生まれる。いろんな人が関わる余地が生まれるのがおもしろい」と藤井さん。

「まずは、森にきてほしい。皮剥き間伐を体験した人は、木々のみずみずしさや木のエネルギーに感動した、力を感じたと言ってくれる人が多くいます。そんなふうに森とつながることで、消費行動が変わるきっかけになるかもしれない。家を建てるときの材木の選び方だけじゃなく、食事をしたり、水を飲んだりするときに、森の恩恵だってことを意識してリスペクトする。森とのつながりを感じなくても生きていけるけど、森を通して生活が豊かになっているってことを知ってもらえたら」。

森とのつながりを感じるカフェをオープン

さらに、森との繋がりを感じてもらうための場として、22年8月に糸島市に隣接する福岡市西区に「オーガニックカフェ ウインドファーム 今宿店」をオープンさせました。間伐材を使った床やテーブル、椅子など、店内は木の温もりにあふれています。フローリングも、もちろん間伐材。藤井さん自ら一つひとつ作っていったものです。靴を脱いで上がると、足元から伝わるやわらかな肌触り。木の温もりを感じることができます。

ぜひ味わって欲しいのは、甘夏ジュース。耕作放棄地となったみかん山を生物多様性の森に変えていくことを目的に始めた「森林農業」によって収穫した甘夏を使っています。

「間伐材を使った温もりを感じるオーガニックカフェ ウインドファーム 今宿店」

「森に価値があるといっても、森に来るのはハードルが高い人はいる。でもカフェならたくさんの人がきてくれる。そこで森のストーリーを伝えていけたら」と、さまざまな形で森とつながる場を生み出そうとしています。

今日の作業の結果が出るのは、100年後

「森を大事にすること、少なくとも関心をもつこと。そういうことを当たり前の”文化”にしていきたい」

「私たちがしているのは、息が長い活動なんです。森を手入れしていたら、100年はゆうにかかる。今日の作業の結果が出るのは、100年後。だから、子どもたち次世代への継承を特に大事にしています。自分が生きている間がよければそれでいいって視点で動いた結果が、今のこの森の姿。森での作業を通して、僕は自分が生きている間だけじゃなく、その次のことを常に考えていられるんです」。その手が木をなでる姿は、とても優しくみえます。

「自分が生きたあとに残せるものって、僕にとっては森しかない」と、話す藤井さん。でも次の世代に残せるものがあると答えられる人は、そう多くないのではないでしょうか。できることなら、私たちの子どもや孫、さらには100年先、200年先に暮らす人が、循環し永続できる自然のいとなみとともに過ごしていてほしい。そんな願いを込めて、今できる一歩を踏み出したいと強く感じました。

語り部一覧

NPO法人いとなみ /
藤井芳広さん
滋賀県出身。高校卒業後、上京し、映画制作の道へ。その後、9.11テロをきっかけに、社会問題に興味を持つように。環境運動やスロービジネスに取り組むNGOで活動をしたのち、2011年に糸島に移住した。現在、森づくりと東アジア交流を目的とした「NPO法人いとなみ」の代表をつとめる。

体験一覧

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