自然によりそう暮らし
いつもの道から脱線し、身近な自然を再発見する「小さな脱線研究所」 #2
※ 全2話の 2話目
学校よりも、自然が居場所
東京都出身の野島さんですが、幼少期に両親とともに大分県に移住。「山の中で、まさにポツンと一軒家に住んでいた」と笑います。「僕は小学校1年生のころから学校に行かず、山の中の家で兄弟と遊びながら育ったんです。アウトドア好きというよりは、自然があるのが当たり前で、自然と一緒に育ったという意識がすごくあるんですね」。
そうして野島さんは、野生動物の研究室がある関東の大学に進学。その後、北海道の大学院に進学し、子どもの環境教育に関わるようになりましたが、あるとき違和感を感じたと言います。
「当時コウモリの研究をしていたのですが、せっかく自然の中にいるのに、子どもたちに研究成果を伝えることが目的になっていました。何らかの正解があって、そのために自然を利用しているような気がしてきてしまって……。何か教訓めいたものを引き出さなくても、コウモリを観察するだけで十分楽しい。自然に触れることに、大人が意味を定める必要はないんじゃないかって、思ったんです」
そのころから、「小さな脱線研究所」につながる構想が、ぼんやりと頭の中で描かれ始めました。「まちの一角に、動物や自然のことを調べる自分の研究室があって、子どもたちが自由に立ち寄るうちに、自然や生き物をいつの間にか好きになってくれるような。そういう場所ができることで、救われる子どもたちもいるかもしれない。そんな場所が作れたらいいなって」。
学校よりも自然の中にいる方が心地よかった、かつての自分。きっといつの時代にもそういう子はいるはず。だから子どもたちとの場を自ら作りたいと思ったのです。
その後、商店街の一角で子どもが自由に遊べる場づくりを行っていた九州大学の院生に出会った野島さん。一大決心をして北海道から福岡に移り住み、九州大学の博士課程に進みます。「でも、その遊び場で生き生きと過ごす子どもたちと関わっていると、自分は本当に研究者になりたいのか疑問が出てきました。お話を考えたり、絵を描いたり、粘土で何かを作ったり。そういう活動がしたいんだと思って、それが仕事になるのかもわからないまま、大学院を中退しました」
こうして2008年から、「マイマイ計画」をスタート。名前の由来を尋ねると「物心ついたころから、カタツムリが好きだったんです。フィーリングが合うのかな。動きがのんびりしていて、じっくり観察できるのがいいのかも」と野島さん。2011年からは、糸島市前原にあった研究室のガレージを自由に子どもたちが行き来できる「こうもりあそびば」の運営も開始(現在は休止中)。思い描いていた構想を徐々に形にしていきました。
ただ歩くのと、知って歩くのでは大違い
「自然って、何を用意するわけでもないのに、歩いているだけでいろんな体験ができるんです」。せっかくなので、研究所近くの山道を一緒に歩いてみました。
すると、なんておもしろいこと! 何気ない道端の草は草笛になり、隣にはスーパーに並ぶものより一回り以上大きい野生のミツバの姿。さらに福岡では絶滅危惧種に指定される貴重な種のカタツムリを発見し、すぐそばにはイノシシが駆け上がった足跡まで…。普段はただ歩いて通り過ぎるだけの景色が、多彩に、そして鮮明に浮かび上がってくるのです。
「自然が多いことと、自然を知っていることは違うんです。自然があっても、知らなければさーっと通り過ぎちゃう」。自然を知る野島さんの目は、私たちと違うレンズを持っているよう。野島さんのレンズから見る世界の豊かさに、俄然興味がわいてきます。
自然を知ることが、生きやすさにつながる
オープンラボをはじめ、書籍の執筆やワークショップなどを行う野島さんですが、これらの活動を通して伝えたいのは、「自然と関わるさまざまな魅力を感じてほしい」ということ。
「別に、自然あふれる田舎に住んでいなくてもいい。都会にも道端にちょっとした草があったり、小さな生き物がいたり。息が詰まるようなことがあっても、知っている花が咲いているとかカタツムリがいるとか、そういう何気ないことでほっとする。自然と関わることで心が豊かになったり気持ちが楽になったりして、その人が生きやすくなると思うんです」。
子どもたちの自由な発想を受け入れ、大人たちが素通りしていたものの魅力を気付かせてくれる野島さん。当たり前のように通り過ぎていた物の前でふと立ち止まる機会が増えたり、知らなかった魅力に気がついたり。学校や職場だけじゃない、自分がもっと自分らしく心地よくいられる場所は実はとても身近にある。野島さんが見ている優しい世界を、垣間見せてもらった気がします。
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